第32話 引き継がれた引き継ぎ業務

 ゴリラからポンと肩を叩かれる幻視を見て一週間が経過した。特に何か変わったことはない。相変わらずオレたちの住むスラムは汚れている。ブルジョワたちによる搾取し終えた搾り滓となったほとんど色の変わらない人々の、誰も片付けようとするものがいない名も知れない死骸が路傍の片隅On the street cornerに積み上げられ腐臭を撒き散らしている。

オレももうすぐこの死骸の山に積み上げられ誰からも忘れ去られ、資本主義という怪物の養分になる。


―――

 薄汚れたスラム街を通り抜け、薄汚れどころではない腐臭漂うスラム最深部の俺がいるここに、美しい淑女がピシッとした服を纏う召使いたちを連れてオレのところにやってきた。流石にビビる。しかし会うと向こうが先に頭を下げ、奏上するという形で恐れながらといった体で語りかけてきた。


「我らが貴婦人が、あなた様に新しい使命を託されたと伺い、そのお手伝いをするために参上いたしました。」


「はぁ……?」


貴婦人?はて?知らんぞそんな人?


「動きを見せない場合は直接わかりやすく引き継ぐのが私めの仕事でございます。やはり私も必要だったようですね。」


 貴婦人(はじまりの女神)が、動物から人間へと進化を遂げたのと同じく、人間は人間以上のものに進化しなくてはならないと思し召しとのこと、そしてその使命はオレに託され、様子を見て使命の遂行に必要になる知識を引き継がせる者を遣わすという事を聞かされた。

 貴婦人とは動物から人間へと進化を遂げた第一の人間、多分に動物的な容姿を残していらっしゃるお方だとの説明を聞き、思い起こした。あのゴリラだ。でもなんでオレなの?

ゴリラの考えることはよくわからん。

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