第3話 身隠神事、冥界下り、ペルセポネ

 種子が土に埋まり、茎や葉、種子の外皮などあらゆるものを脱いでいき、発芽を以ってあらゆるものを再取得し、また地上に現れ、活き活きと成長し花を咲かせ種子を付ける。この神秘的な作用にいにしえの人々が神を感じた。だからペルセポネも稲田姫もイシュタルも種子の象徴と考えられる。


 たかが種子、されど種子。種子には環境から物質を取り込み自己形成し、更にそのはたらきを加速させつつも地球全体を食いつぶすことなく分をわきまえて種子を付けて個体の生を終える。そしてその種子が食べられるものであれば、その植物は神が授けてくれたものと言うのに何の不足もない。


 トウモロコシ、米、麦、粟、稗はすべてイネ科植物であり、近縁種である。人との関わりの中で美味しくなったが、もともとは虫の協力を必要としない風媒花で、穂からポロポロ種子が飛び散る凶悪な生命力溢れる雑草である。


 イネ科植物の雑草には、あのアスファルトを打ち破って生えてくる竹や地表を覆い尽くす芝もある。また商業主義に囚われた田園にとって最も忌避される最悪の雑草は先祖返りか野生種の同作物である。稲なら赤米、粟なら野稗など。これらも食用種同様に食べてなんの問題もないが、市場ではそれらが混在する米や粟は交換価値が低下する。なんという無礼な態度ではないか!


 竹は通常筍を食べるが、数十年に一度出穂して種子も付け野麦と呼ばれる。出穂した竹藪は一斉に枯れるため、竹の花は不吉とされるが、向こうからしたら稲が穂をつけその個体の生を終えた以上のことではなく当たり前の事であり、その種子はまた大地から物質を再取得して自己を形成して地上に返り咲くつもり満々だ。


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