第23話 至上の愛は死なないPart3 〜決意(Resolution)〜

 泣き上戸のクリスを介抱するようにデメトリアは優しく語りかける。そこに女神デメテルの姿が被って見える。


「ヨハンが実施していた使命はまだ途半ばで、誰かが完成させなくてはなりません。完成させるのが無理でも少なくとも引き継がなくてはなりません。あなたにとってヨハンの完全なる伝承者がどこにも見つからないならば、あなたがやることがあるのではないですか?」


「……それは……。」


 クリスは漠然と感じていた違和感の正体に気が付いた。求めるばかりで提供する側に回るということを無意識のうちに避けていたのだ。自分になんか出来る訳がない。ヨハンは完全なのだから。いや少なくともそれを少なからず目指している筈の人々のステージにヨハンを見つけられていないということからすれば他力に頼っても無駄だ。失ったら自ら作り出す。出来るか出来ないじゃない。完全でなくてもいいから


 普遍界からの天使の祓魔の声を聞き、ヨハンの使命の後継者たらむとクリスは心機一転、ヨハンを追うのではなく、ヨハンが追い求めたものを次は自分が追うのだと決意を固めた。そこには失った目標への炎ではなく、新しく追求する魂が宿っていた。


 ヨハンの最高傑作と誉れ高い作品では念仏のような詠唱が含まれていたが、明らかにクリスの知っている言葉ではなかった。今は意味がわからなかったが、必ずあとから必要になるものであると直感的に理解した。なんとかしてそれを残そうと表音文字の新しい言語体系を構築する。


 他人の仕事だと何処か突き放していた見えなかった部分、出来ない部分の代替を設計し実装していく。これはヨハンを失った人類が払わなくてはならない代償だが、自分がヨハンでない以上はやらなくてはならないのだ。逆に言うとそれだけの話だ。呪われし地球人たちを救済するヨハンの崇高なる使命さえわかってしまえば、クリスにも出来ることはあった。

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