ONCE UPON A TIME

第11話 ウホッ・ウホッホ

 むかしむかしの大昔、まだ人類が地上に現れてなかった時代、雌ゴリラ――いや原人と言ったほうが良いのかもしれません。――が居ました。彼女の群れはヒョウに襲われ雄は息子の一頭だけ。生き残るために敵がやってこない木の上で家族のような群れで暮らしていました。

 木は季節になると実を付けます。彼女は果実を取り食べて木の下に投げ捨てました。春はさくらんぼ、夏には瓜、秋には梨、冬にはりんごを食べては種を捨てていました。住処にしてる木にすぐに逃げ込めるように注意が散漫になる食事はいつも棲家の木の近くです。

 彼女の住処の周りは当初こそ腐敗臭を漂わせていましたが、いつの間にか必要な糧が必要な時に必要な分だけ実をつける楽園となりました。


「ウホッウホッウホホッ」


 彼女は子どもたちに築いた楽園を守るように言いつけ、住環境の整備について経験を教えます。彼女こそが農耕神の祖であり人間を人間たらしめた女神その人であり、人類の遠い祖先です。人類史上最も優れた発明家たちですら生活を変えた功績では彼女の足元にも及びません。


 彼女はその後、何世代も後の子孫たちからはじまりの女神として崇敬され、その住処としていた木は世界樹と呼ばれてやはり崇拝の対象になります。世代を重ねた子孫たちからは伝説のひととして、貴婦人や共通の母、天の女主人などさまざまな便宜上の呼称が与えられ聖職者のみ知ることができる秘儀の女神として秘匿されてきましたが、彼女の本当の名前はポコココココ・ウホッ・ウホッホ(はじめのポコココココは胸を叩いて発音、ウホッホはゴリラの声で発音します)です。


 なお、一世代目の息子の雄ゴリラがはじめの、生まれながら人間として生き、母の功績を余す所なく次の世代に引き継いだ、はじまりの人間として現在では閻魔大王などと呼ばれて崇拝されています。ゴリラみたいな人なので、出会ったときに粗相がないように気をつけましょう。はっきりしていることは、女神(ゴリラ)が種を蒔かなければ、閻魔大王(ゴリラ)がその秘儀を引き継がなければ人間という種族は存在しなかったということです。

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