第8話 正帰還・負帰還

 システム構築の基本的な考え方にフィードバッグ(帰還)がある。ある系の出力を同一の系の入力に戻すことを言う。


 ある系の出力が正の方向として作用してその系に再度入力される構造を正帰還と呼び、またの名を悪循環、燃え尽きと呼ぶ。代表的な事例はマイクやギターのハウリング。マイクが拾った雑音がアンプに入力され増幅されてスピーカーから出るとそれを再度マイクが拾ってアンプに入力することで構成要素の限界まで大音響のキーンという音になる。

 また、燃焼もまた正帰還の例としてよく引き合いに出される。温度が上がることで燃焼し、燃焼することでまた温度が上がりそこにあるものがすべて燃焼しきるまで燃焼を続ける。核分裂の連鎖反応も同様に燃焼が燃焼を加速させてすべてをあっという間に燃え尽きさせる。

 アンプやギターの場合はアンプ(系)自体の性能上の限界や電源が制約として働き、バランスが取れるため熱や物理的な破損が起こるまでそれなりに時間がかかるが、燃焼の正帰還は爆発となり一瞬にしてすべてを焼き尽くす。


 他方で、出力を負の入力として系に戻す構造を負帰還と呼び、調速機やサーモスタットといったシステムを安定稼働させるために構築される。


 暴れてすべてを飲み込もうとする系を構築する正帰還と、それを調速するための負帰還を巧妙に仕込むのがシステム構築の肝と言えるだろう。しかし負帰還を強めすぎたシステムは瞬発力の強い正帰還主導のシステムに自由市場で負ける。競争で生き残るのシステムはネズミ講的要素を持つ正帰還バリバリの向こう見ずの暴走システムになる人類の呪いが掛かっているのが資本主義である。


 資本主義は資本を媒介にした正帰還となっており、かつての金本位制は金の供給がシステムの外部からの成約、すなわちスタビライザーとして働いていたが、人が気分で管理する管理通貨制においては、ただただすべてを巻き込み粉々にする破壊のみの非建設的な爆弾となってしまった。



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