第25話 至上の愛は死なないPart5 〜賛美〜

 デメトリアの訃報をクリスが受け取ったのは自分が出し切れるすべてをライブに音盤に押し込み、ヨハンの使命の後継者も全世界に種を蒔き終えたという手応えを感じてすぐ後のことだった。


 蒔いた種は一部発芽し刈り取りではないがヨハンの最高傑作と誉れ高い「至上の愛」や「アセンション」の隣に並べてもちっとも恥ずかしくない立派なインプロヴィゼーションアルバムも一枚だけだが出せた。


 デメトリアは大いなる使命に目覚めさせてくれた大恩人だ。しかし何故か喪失感や寂しいという感情は無かった。彼女の使命はヨハンがひとり預かってた使命を教え、それを可能な限り蒔かなくてはならぬということを伝えることでその使命は完全に遂行された。


 彼女の持っていたほかにやらなくてはならないすべての使命を全うして、安らかに息を引き取ったのだろう。もちろんクリスもデメトリアを慕っては居る。しかし彼女は自分の中に完全体で生きているのだから、その肉体から魂が抜けても何も寂しいことは無い。その魂は不可逆な形でクリスの肉体で生き続けている。世界は彼女の歌を直接聞くことができなくなったが、数え切れないほどの音盤がプレスされ彼女の声が流れていない時は存在しない。あのひとはもう思い出だけどきっと遠くで、いや世界中の同志の肉体を通じて見つめている。


♪だばだん!んふーふふふ!


彼女の遺作、「木々は歌う」がレコードプレイヤーから流れ、夜更けていく。クリスの肉体がまだ活動していることに、まだ使命を終えていないのではないかという想いはない訳では無いが、今はヨハンの喪失分を補充し終えた。ここからはやれればより良いが、やれなくても人類にとって何の損失でもないエキストラステージだ。


The history of human being must be never without your songs.


 明日への誓いを新たにして、クリスは眠りに就く。

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