第11話 出動準備
『市内住宅ビルで火災が発生』
『現場の目撃証言より、「人外」が出火原因の可能性が高いと判断。第十ニ・第十三並びに「第十四特務消防師団」は速やかに現場へと急行せよ─────』
そこからの火垂は早かった。素早く階段を駆け上がると、ロッカーから防火服を引っ張り出して着装。そのまま消防車両の運転席へと滑り込んだ。
周哉も半歩遅れながらに分厚い生地の防火服へ袖を通す。
「まっ……待ってください!」
消防車両の定員は四人。助手席には鈴華が腰を掛け、周哉も前座席の二人に習うよう後部座席へと乗り込んだ。
そして、その真横にも一人の男が乗り込んできた。
「……」
大上煉士(おおがみれんじ)。つい先日、海外の出張から戻ってきた三人目のメンバーだ。
身長が一九〇センチを超える煉士にとって車内は、少し手狭に感じられるのであろう。その眉間に深く皺を刻みながらも、恵まれた体格をシートベルトで固定してみせた。
獣のように逆立てられたツンツン髪と、ギロりとした鋭い瞳はそれだけでも相応の迫力がある。
しかも、彼の額から鼻先に掛けては、何かに切り付けられたような痛々しい傷痕が残っていたのだ
(……知りあって間もない人にこんなことを思うのも失礼なんだけど)
煉士の姿はどう見ても、カタギらしくない。防火服と装備一式を纏っていなければ、「ヤのつく自営業」の人間に見間違えたとしても、おかしくはなかった。
「……おい、新人。……俺の顔に何かついてるか?」
不意に煉士がこちらを向いた。
「えっ、いや……」
「……」
「い、いえ、なんでもありませんっ!」
「……」
彼はこちらを凝視したまま視線を外そうとしてくれない。それどころか、細められた眼差しは次第に鋭さを増してゆく。
「動くな」
煉士が大きく両腕を振り上げた。無骨な指先は周哉の細い首筋へと伸ばされ────
「ヘルメットはしっかりと着用しろ。崩れてきた障害物から頭部を保護するための重要な装備だ」
彼は器用に、緩んでいたヘルメットのベルトをキツく結び直してくれた。
「えっ……」
「それから、緊張のしすぎだ。気を緩めろとまでは言わないが、現場の雰囲気にも充てられすぎるな」
呆気に取られた周哉の肩へと、煉士は優しく手を添えてくれた。
きっと、その一部始終が可笑しかったのであろう。前の席では鈴華がクツクツと笑いを堪えている。
「ふふっ、そう怖がらなくても良いんだよ。煉士さんはね、口下手な上に強面だから誤解も受けやすいが、『超』が付くほどのお人好しなんだ。道に迷っているお婆さんがいれば助けるし、道端でゴミを拾ったら必ずゴミ箱まで持ってゆく。おまけに休日の趣味は家庭菜園ときた」
煉士は少し恥ずかしそうに、車窓の外へ視線を逃した。人は見かけに寄らないと言うべきか。
「ごほん……! 団員同士が信頼感が深まるのは、副団長としても望ましいことですが、今はそれどころでもありませんよ。私たちは現場に急がなくては」
火垂は全員の搭乗と用意ができたかを確認する。
各々が力強く頷いて、第十四特務消防師団が出動した。
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