カレン ~episode14~

 橘くん、いや、颯真と付き合い始めてからの私の演技力の向上は目を見張るものがあった。どんなに練習が辛くたって自分が颯真の彼女だということを思い出した瞬間、世界がキラキラして見えるし、野獣と恋に落ちるベルに心からなりきることができた。一緒に帰るようになってから、颯真と近くにいてもあまり緊張せずに済むようになり、ダンスのシーンもとても自然にこなせるようになった。

 そして、私の歌の上手さはクラス中の人をびっくり仰天させた。沢村くんは大喜びで私の歌のパートを増やし、先輩方のクラスを差し置いて劇の最優秀賞を獲得するのもあながち夢ではない、と息巻いた。

「花蓮ちゃん、ドレスのサイズ合わせたいから、これちょっと着てみてくれる?」

衣装係の瑠璃ちゃんが私に綺麗なドレスを差し出した。私は胸が高鳴るのを感じた。昔ピアノの発表会で着ていたドレスが丁度黄色だったから持って行ったら、家庭科部の瑠璃ちゃんを筆頭に手先の器用な子達がアレンジしてくれた。おかげでドレスはより広がってふわふわしており、お姫様感が増していた。

「わあっ!」

私はドレスを見て思わず歓声をあげる。瑠璃ちゃんが満足そうに微笑んだ。

「元のドレスが可愛かったから、結構いい感じに仕上がったの。ほら、着てみて。はやくう!」

私は背中を押されるがまま更衣室に向かい、ドレスに足を通した。周りに人がいないことを確認し、くるりと一回転してみる。ドレスが綺麗に広がった。私の顔が思わずほころぶ。私は足取り軽く教室に戻り、おずおずと扉を開けた。

「どう、かな…?」

皆が一斉に振り返った。女の子たちが歓声をあげる。

「「可愛いっ!」」

「ありがとう」

私は少し赤くなりながら言った。

「ちょっと腰回りが緩いかな。少し詰めた方がいいかも。にしても、腰ほっそ!」

「何気にスタイル良いよね。顔も整ってるし。メイクするの楽しみにしてるの。」

女の子たちが口々に言う。普段容姿を褒められ慣れていない私は八の字眉になりつつ、小さな声で言った。

「ありがとう。皆、優しい。」

そんな私を見て、瑠璃ちゃんが不思議そうに言った。

「花蓮ちゃんってすごい謙虚っていうか、自分の見た目に自信ない?よね。なんで?」

「この人の家系、全員美形なのよ。幼馴染の男の子も超絶イケメンだし。だから花蓮も十分可愛いのに霞んじゃうのよ。」

愛莉が肩をすくめて言った。

「えー、そうなんだ!」

「写真とかないの?」

「あるよ。」

私はすぐさま答える。綺麗な二人は私の自慢だ。

「これ…。」

スマホで二人が映ってる写真を探し出し、皆に見せる。

「こっちが姉で、こっちが妹。」

覗いた子達が皆驚きの声を漏らした。

「まじの美形じゃん…。」

「妹さんのスタイルえぐくない?身長いくつ?」

「一七二。」

「「モデルじゃん!」」

「うち、お姉さんの顔も好き。」

「分かる!妹ちゃんの方がいわゆる美人だけど、お姉ちゃんの方は印象に残る顔というか、女優さんにいそう。」

「宝塚とか?」

「「そう、それ!」」

私は笑った。

「真綾―お姉ちゃんの名前ね―のあだ名は、『宝塚男役』か『ホスト』だった。」

「「そんな感じする!」」

皆がきゃっきゃきゃっきゃと騒ぐ。私はにっこり笑った。シスコンと呼ばれる私は確かに劣等感を感じるときもあるけど、なんといっても二人が褒められているとやっぱり嬉しい。

「王子も着替えたぞー。」

と、沢村くんの声が聞こえて、皆一斉に振り返る。

扉の方を見ると、颯真が居心地悪そうにそわそわしながら立っていた。かっこいい…と私が浸る間もなく、腕を引っ張られるのを感じる。

「二人、並んで!」

瑠璃ちゃんに引っ張られて颯真の隣に立つと、クラス中が拍手した。

「超お似合い!」

「爽やかカップルじゃーん!」

皆がはやし立てる。ちらっと颯真の方を見ると、目があった。

「すっごく可愛い。」

颯真が恥ずかしげもなく言う。皆がヒューヒュー言う声が聞こえる。私は茹蛸みたいに真っ赤になって、颯真をぽかぽか叩いた。

「こんな、人前で、言うなっ!」

教室中の皆が笑う。クラスの一体感も完璧だ。このときまで、私の瞳にはすべてが完璧なように映っていた。

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