レナ ~episode 11~

 次の日になってみると、亮はいつもの亮に戻っていた。昨日のはなんだったんだろうと思いつつ、私はあんまり気にしないことにした。亮ママに子どもなんだから!って怒られたかなんかで苛立ってたんだ、多分。

「俺さ」

深刻な面持ちで亮が言う。

「ん?どした?」

一樹くんが英語のテキストから顔を上げて言った。次の授業は英語で、ちょっとした小テストがある。

「俺さ、今ね…。」

珍しく真面目な顔をして言う亮を見て、麗華と一樹くんが少し緊張した様子で亮の顔を見る。そんな中、私はどうせまたくだらないことだろうと、小テストの勉強を続けた。

「めっちゃピーマンだわ。」

「「…は?」」

二人が声を揃えて言った。私は一瞬で意味を理解し、大きなため息をついた。

「そんなこといちいち報告しなくていいのよ。」

「はぁ!?今ので意味わかったの!?」

私は肩をすくめてみせた。

「何年この人と一緒にいると思ってんの。」

「さっすが俺の玲奈。」

亮がなぜか誇らしげに言う。私は亮を睨みつけた。

「私は私のもの。あんたのものじゃない。」

「いや、ちょい待ち!なんかヒント!」

一樹くんが私たちの顔を交互に見ながら言った。

「だーかーら、今俺めっちゃピーマンなの!ピーマン!」

「じゃあそんなこと言ってないでさっさとトイレ行きなさいよ。」

「…は?トイレ?」

一樹くんが混乱した表情になった。別にこんなの意味が分かったってどうしようもないのに。

「あー!」

麗華が何かを閃いた表情になる。と、その途端爆笑し始めた。

「かね、しろ、くん!それって、おかしい!」

「麗華、あんたってやっぱりちょっとズレてるよ。」

私が呆れたように言った。

「なんか、ここまで笑われるとバカにされているように感じるというか、スベったときより恥ずかしいというか…。」

「そうよ、バカにされてんのよ。」

「ええっ!そうなの!?如月さん、俺のことバカにしてんの!?」

でも肝心の麗華は笑い転げていて、亮をフォローしてあげられる状態ではなかった。

「俺だけ置いてくなよ!ぜんっぜん分かんないよ!」

なんだか一樹くんが可哀そうに思えて、私は説明してあげた。

「ただのしょうもないギャグ。ピーマンをピーとマンで分けて、英語の意味を考えるの。」

「ピー…、マン…、あー、そういうこと…。」

意味を理解した一樹くんが、あまりのしょうもなさに絶句した。

「麗華、あんまり笑うと亮が調子乗るでしょ。正しい反応はこれのなのよ。」

私は目に涙を浮かべて笑う麗華に向かって、一樹くんを指さしながら言った。

「亮、おまえ、小学生かよ…。」

やっとのことで一樹くんが言う。『おまえ何くだんないこと言ってんだよ~』くらいで終わると思っていたらしい亮も、なんだか困った顔をしていた。

この状況が何だかじわじわきて、私もふふっと吹き出す。

「変な人たち。」

私の笑顔を見て亮も笑った。私は気を引き締め直す。

「バカだとは思ってるんだからね。」

「栗原さん、怖いよう。」

亮がふざけたように言う。その隣で麗華は、英語の授業の開始を知らせるベルが鳴り終わるまで、一人で爆笑していた。

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