レナ ~episode 10~

 「随分仲良くなったんだな。」

学校からの帰り道、亮が突然言った。

「え?誰と?」

私はあまりに唐突すぎて聞き返す。亮が道に転がる石ころを蹴りながら答えた。

「鳴海。」

「ああ、一樹くん。」

私が頷くと、亮の眉がピクリと動く。

「なに?」

「別に。」

私は亮を睨みつけた。はっきりしないのは亮らしくない。

「なんでもいいけど、どうして一樹くんがシャーロック・ホームズ好きだって教えてくれなかったの?部活中に亮とシャーロック・ホームズの話したことあるって言ってたけど?」

「あー、そうだっけ…?」

のらりくらりと私の質問をかわす。私はぐるりと目を回した。

「そういえば、笹島さん北条くんと付き合い始めたって。」

「へー」

亮がどうでも良さそうに言う。私は眉をしかめた。

「気になんないの?」

「なんで俺が気にすんだよ。」

こいつまた新しく好きな人ができて、前に好きだった人を忘れちゃったんだろうか。

「前に私に笹島さんのこと可愛いって言ってたでしょ。」

亮が少し考え込んで、それから頷いた。

「そういえばそうだった。」

「なんなのよ、もう。」

私はため息をつく。そして、ぼそっと呟いた。

「いいなー、私も彼氏欲しいな…。」

亮がすごい勢いでこちらを振り返った。私はあまりの勢いの良さにドキッとする。

「なによ」

「玲奈って、そういうの興味あんの?」

「そりゃあ私も、年頃の女の子ですから。」

いつも通り吹き出すかと思いきや、何やら考え事を始めた。

「鳴海のこと、好きなのか?」

亮が地面を見つめたまま言った。私は笑いながら首を横に振る。

「ううん、鳴海くんはただの友達。気の合う仲の良い友達。亮までそんなこと言い出さないでよ。」

これを聞いて、亮の表情が少し明るくなったように感じた。

「へぇ、そっか、ふうん。」

亮が何だか嬉しそうに言う。変なヤツ、と私は思う。

「玲奈って髪下ろしたりヘアアレンジしたりとかしないの?真綾ちゃんそういうの得意じゃん。」

これまた唐突に亮が言った。

「うーん、なるべく都心は迂回するようにして帰ってるけど、それでも絡まれるの面倒くさいし…。ひっ詰めてた方が声かけられる率低くなるから。」

真綾はいつも私の髪を結いたがるが、私が断固拒否をしていた。本当は私だって可愛い髪型で外を歩きたいけど、スカウトしてくる人には結構しつこい人もいるのだ。だからなるべく、自分が綺麗に見えない格好で通学する。

「でも俺、もう玲奈のこと守れるよ。しつこい人がいたら追い払えるよ。俺もう、小学生じゃないんだし。」

私はきょとん、とした顔になる。そんなこと知っている。それに一番ときめいているのが私なんだから。なんだって突然そんなことを言いだしたんだろう。

「うん、ありがと。気が向いたらね。」

亮は頷くと、私の家の前で立ち止まった。帰りは危ないから、と毎回家まで送ってくれる。そういう意外と紳士なところも、私は好きだ。本人には、言えないけど。

「またね。」

私が言うと、亮が私に向かって手を振った。私も振り返して家の中に入る。

ただいまーと言ってリビングに向かうと、花蓮と真綾が顔を上げた。

「「おかえりー。」」

「今日も騎士様のお見送り付き?」

真綾が茶化すように言う。私は首を捻って言った。

「なんかあの人、今日はちょっと変だった。」

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