レナ ~episode 9~
「皆に誤解を与えちゃったみたいで、ごめんなさいね。」
私は一樹くんとベランダの柵にもたれかかりながら言った。
「いいんだ。」
一樹くんが笑って言う。
「どうせ、叶わぬ恋だし。」
「そんなことないよ。」
私は言葉を強めて言う。
「ただ麗華は、ちょっと変わってるから…。」
「それに嬉しかったんだ、玲奈ちゃんが友達になりたいって言ってくれて。」
一樹くんがテニスコートで試合を行う上級生を見つめながら言った。
「それより、こんなとこで二人で話してる方が噂になるよ。」
確かに、と私は思った。私は注目されるのに慣れているけど、一樹くんはどうなんだろう。不快な思いをさせているなら申し訳ないな、と私は思う。
「話さない方が、いい?」
私が聞くと、一樹くんが首を横に振った。
「別に、皆がなんて言おうと気にしないよ。それに、俺も玲奈ちゃんと友達になりたいしね。」
私はにっこり微笑んだ。それから、気になっていたことを一樹くんに聞く。
「いつから麗華のこと好きなの?」
うーん、と一樹くんが考え込む。
「正確にいつだったかは忘れたけど、好きになったきっかけは覚えてる。」
私が先を促すように首を傾げると、一樹くんが恥ずかしそうに笑った。
「体育祭の練習でサッカーやってたときに、俺と兼城が盛大にぶつかったんだ。二人とも転んでひざを擦りむいたんだけど、正直俺の傷の方が深かった。でも、女子は皆、兼城の方に駆け寄ったんだ。口々に大丈夫?って言いながら―。でも、如月さんだけは、俺の方に来てくれた。絆創膏を差し出して、『大丈夫?』って声をかけてくれたんだ。それが俺は、嬉しかった。そんだけ。」
素敵な話だな、と思う。麗華の良いところは差別をしないところだ。その日の情景が目に浮かぶようだった。
「ちなみに、兼城はそんな女子を全部追い払って、俺を支えて保健室まで連れてってくれた。あいつは、イケメンだしチャラいし色んなものを持ち過ぎだとは思うけど、いいヤツだよ。」
私は頷く。そこは私が亮を好きな理由の一つだ。
「大したことじゃないんだよ、自分で話してて思うけど。俺ってちょろいよな。」
私は首を横に振った。
「とっても素敵だと思う。麗華の見た目で選んでるんだったらどうしてやろうかと思ってたけど、ちゃんと中身を見ていたから。それが、麗華にも伝わるといいね。」
「難しいだろうなー。」
一樹くんが苦笑いをした。
「で?玲奈ちゃんは何がきっかけであいつのこと好きになったの?」
あのときのことは、今でも鮮明に覚えている。私はふっと笑った。
「私、小学校のときいじめられてたのよ。」
一樹くんが驚いたような顔をする。
「そんな暴力とかじゃなくて、陰口言われたりとか、そんな程度のね。小さい頃から口がたって、生意気だったから。それに、自分で言うのもあれだけど、先生からも保護者からもすごく綺麗な子ってちやほやされてたしね。それで―小六のときかな?初めて同じクラスになった亮が助けてくれたの。五年の中頃から続いてたんだけど、違うクラスだったからそれまで知らなかったみたくて。」
私は遠くを見るような目で言った。
「亮が本気で怒るのを見たのは、あれが最初で最後だったな。『嫉妬してるだけだろ』って亮は言ったの。『羨ましいと思うんだったら、皆で潰しにかかるんじゃなくて玲奈よりすごくなれるよう努力しろよ』って、すっごく怖い顔でね。あの人、学年の人気者でいつも笑ってる人だったから、皆びっくりしちゃって。それで、ぴたっといじめは終わったの。」
その後亮は姉二人にこのことを言おうとしたけど、私は秘密にしてもらった。言ったら亮以上にキレるのが分かっているからだ。だから、あの二人は私が亮を好きになった本当の理由を、まだ知らない。
「あいつ、かっけえな。」
一樹くんが感心したように言った。
「ガチもんのヒーローじゃん。」
「ね。」
私は照れ臭そうに言って頷いた。そう、亮はずっと昔から、私にとってのヒーローだ。
そして私は、彼の物語のヒロインになりたい、夢見る女の子なのだ。
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