マヤ ~episode 9~

 「え、それ本当!?」

私、七瀬、恭ちゃんは目を見開く。謙人が満足そうに頷いた。

「本当だよ。いや俺、常識しか言わないから。真綾と違って。」

「常識しか言わない人つまんない。」

私は眉間にしわを寄せる。

「嘘だぁ!俺、いっつも冗談ばっか言ってるじゃん?」

「じゃあやっぱり君のことは信用しない方がいいね。」

「え、いや待て、俺はだな―」

「真綾!」

後ろから私を呼ぶ声が聞こえて、四人同時に振り返る。まーくんがこちらに手を振って走って来た。

「特別延長の許可おりたって!」

「うっそ!」

私は歓声をあげる。

「やった!」

「特別延長って?」

謙人が私に聞いた。私はウキウキして答える。

「重要な試合が近いときは、夜七時まで学校に残って部活出来るの!その許可が出たらしくって!」

そう言った後、少し顔を曇らせる。

「でもそうなると、謙人とは一緒に帰れなくなるね。」

「いやいや、待ってるよ。暗い中一人で家に帰すわけにいかないし。」

謙人がさも当然、といった風に言った。

「え、申し訳ないよ!大丈夫、私一人でも―」

「安心しろ、王子!」

まーくんが胸を張った。

「姫は俺が責任もって家までお送りするからよ!」

「え?いや、まーくんも送らなくていいよ!」

「遠慮すんなって。どうせ俺もその時間まで残るし―」

「いや」

謙人がまーくん側に一歩踏み出しながら言った。

「俺が送るから平気だ。」

「私一人で大丈夫だって!最近日が伸びてるし…。」

私は謙人のワイシャツの袖を引っ張って言った。謙人がそんな私を見てにっこりと微笑む。

「ううん、俺が待ってたいんだ。学校の近くの図書館、九時までやってるからそこにいるよ。家じゃだらけちゃうから、ちょうど良いんだ。」

「…ほんとに?」

私が聞くと、謙人が笑顔で頷く。

「さっすが王子、イッケメーン。」

まーくんがはやし立てるように言った。

「まーくん!」

私はまーくんを睨みつけた後、謙人に向かって少し困ったように笑った。

「ありがと。でも、本当に大丈夫だから。」

「そっか。」

謙人が少し残念そうな表情になる。こういうとき、私には何が正解なのか分からない。謙人は完璧な彼氏を演じてくれているけど、それが重荷になることはないんだろうか。真綾の彼氏をやってたら疲れるから、とかいう理由でふられるのは、一番避けたいことなのに。

「真綾」

七瀬がこそっと私に耳うちした。

「甘えんのも、大事だよ。」

そういうものなのだろうか。私は甘え方が分からない。長女だし、いとこも皆私より年下だし、謙人が初カレだし。可愛くなりたいな、とふと、そのとき思った。

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