レナ ~episode 8~

 私たち四人が仲良くなってから、学年では私たちのことがちょっとした話題になっているらしかった。三人の名前がRから始まるということで、『Triple Roses and One Tree』というグループ名がつけられているらしいということも風の噂で聞いた。

「いやもうほんと、目の保養だよね。」

近くでクラスメイトが話しているのが聞こえる。聞こえているんだかいないんだか、亮は『スター・ウォーズ』の最新作についてとうとうと語っていた。

「それめっちゃ分かる!よくこんな美形そろったなって感じ。」

口角が少し上がったから、聞こえているんだろうな、と私は思った。

「まずはやっぱり栗原さんだよな。手足長いし背も高いし。いかにも正統派美人って感じ。絶対モデルやってると思ってたよ。」

亮が少し眉をひそめた。ええ、ええ、どうせ、私はあなたにとっての美人ではありませんよ。

「兼城もイケメンだよな。チャラいけど、そこがアイドルっぽいっていうか。センターパートがあんだけ似合うやつもなかなかいないよ。」

亮の表情が笑顔に戻る。分かりやすいやつ。

「そしてなんといっても如月さん!フランス人形みたいな可愛さ!顔小さすぎない?肌も白くて透き通ってるし。芸能人じゃないっていうの、本当に信じられない。」

私は麗華の後姿を盗み見た。当のご本人は自分がクラス中の注目の的になっていることなど、これっぽっちも気が付いてなさそうだ。

「最後は鳴海。鳴海は―」

「うんうん、俺は?」

私の隣から身を乗り出して一樹くんが言う。私と亮が話を止めて、一樹くんを振り返った。

「癒し。」

「そうそれ。見てるとほっとする。」

「あ、ちゃんと現実だったわぁ、ってなる。」

皆が口々に言う。

「ほんとそれ。和むよな。」

「ステーキとかピザとかばっかり食べてると、無性に白米が恋しくなるっていうか、そういう感じ!」

「いやいや、ちょっと待って?俺それ絶対褒められてないよね…?」

私と亮が思わず同時に吹き出す。

「何言ってんの、めちゃくちゃ褒めてるよ!?」

「うん。このグループに絶対欠かせない存在!」

「これからも押しグループとして拝ませてもらうわ。」

私は亮と目を見合わせた。一樹くんが不貞腐れたように唇を尖らせる。

「ちぇっ、どうせ世の中顔だよ。どうせ、どうせ…。」

「でもそれは本当だ。」

亮が妙に神妙な面持ちで一樹くんの肩に手をあてた。

「鳴海は俺の傍にいてくれないと困る。」

「えっ…。」

一樹くんが顔を上げた。

「鳴海がいての、俺だからな。」

「兼城、おまえっ…。」

「いやだってさ」

感動友情ストーリーが始まりそうな中、突然亮がいつもの調子に戻って言った。

「他に俺の引き立て役出来る人いないじゃん?鳴海が隣にいると、自然と俺がかっこよく見えるっていうか。」

「もう、いいよ。」

一樹くんが立ち上がった。

「俺もう、不登校になる。」

そう言うと静かに手を振り、教室から去って行こうとする。私は笑って引き留めた。

「待ってよ、一樹くん。」

「君まで僕を馬鹿にするのかい?」

一樹くんが芝居がかった調子で言った。

「違うよ。」

私は言った。

「私が言いたいのは、一樹くんも十分イケメンだってこと。それに、私はそんなの関係なく一樹くんに私と仲良くして欲しい。だってこんなに話が合う男の子、初めてだもん。」

教室中がざわついた。玲奈は正直すぎる、とたまに言われることがある。ちょっと言葉の選択を間違ったかも。というか、こんなに皆が注目している中で言うべきじゃなかったかも。真実では、あるんだけど。

「ああ、ありがとう。」

一樹くんが少し困ったように、でも嬉しそうに言った。

「私も、鳴海くん好きよ。」

いつから聞いていたのか、麗華が本から顔を上げて言った。それを聞いて、一樹くんの顔がほんのり赤くなる。これをクラスメイトは見逃さなかった。ただ、彼らはちょっとした勘違いもしていた。


 次の日、私たちに新しい呼び名が付いた。正確には、私と一樹くん。その名も『現代版・ローマの休日』。顔がいいのも考え物だ、と私は改めて思った。

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