マヤ ~episode 5~
私たち弓道部は今、神妙な面持ちで校長先生の前に立っている。私が不安げにちらっとまーくんを見ると、まーくんと目が合った。
「あんた、なんか問題起こしたの?」
私は眉をしかめて聞く。
「は?なんで俺なんだよ!するわけないだろ。」
「ほんとに?」
畳みかけるように言うと、まーくんが自信なさげな表情になった。
「多分…。」
「ちょっと、冗談のつもりだったんだけど。」
まーくんが私を睨みつけると、紗月がこちらを振り返って言った。
「ちょっと村上、あんた何やらかしたのよ。」
「なんもやってねえよ!どいつもこいつも俺にばっかり…。」
「日頃の行いですね。」
待ってました、と言わんばかりに凛くんがこちらに身を乗り出して言った。
「おまえ―」
「今日弓道部の皆に集まってもらったのは」
校長先生が話だし、まーくんが前を向いた。
「非常に残念なことを君たちに伝えなければならなくなったからだ。」
私とまーくんは不安げに顔を見合わせる。
「えー、うちは都立であるからして、あんまりお金がない。そして弓道部は予算が他の部活と比べて高い傾向にある。であるからして」
先生が男子生徒の顔を順々に見つめた。
「どちらかと言うとあまり功績を残せていない男子部を廃部しようかという案が出ていて―」
「そんな!」
まーくんが大きな声をあげる。弓道部全体がざわついた。
「おつかれしたー!」
タッキーが男子たちに向かって意気揚々と敬礼する。
「校長先生、わざわざご説明、ありがとうございます。それじゃおまえら、はやく退散するぞ。」
「いやいやちょっと待ってください。なんで顧問がそんな無頓着なんですか!?」
部長が慌てたように言う。タッキーがため息をついた。
「俺は男子弓道部なんてどうでもいいんだよ。女子弓道部さえ続けられるのであれば。女子弓道部存続のためには俺は富士山だって登るし、冬の日本海にだって飛び込む!」
「なんですかその差は。」
「え、おま、まさか、知らないの…?」
タッキーが心底驚いた表情で言った。
「うちの弓道部には、未だに男女差別が残ってるんだぞ。女・尊・男・卑!うむ、素晴らしい…。」
「それ、教師の言うことじゃありませんよね。」
美鈴先輩があきれ果てたように言う。
「えー、だって男子弱いじゃーん。」
タッキーが肩をすくめて言った。
「今にでももう廃部になるんですか?」
タッキーを無視して奈々子先輩が聞くと、校長先生は顔の前で手を横に振った。
「いやいや、そんなことはない。もうすぐ都総体があるだろう。そこで優勝してインターハイに進んでくれれば、功績を残したということで男子弓道部の活動を今後も認める。」
皆が一斉に胸をなでおろした。とは言っても、都総体優勝もそんなに簡単な話ではない。
「よかったなぁ、おまえら。」
タッキーが面白くなさそうに言った。
「ありがとうございます。頑張ります!」
部長がお辞儀をして言った。
「「ありがとうございます。」」
それに合わせて他の部員全員もお辞儀をする。
「本当は私も続けさせてあげたいんだがね…。」
校長先生がそう呟いて歩き去って行った。
「これって、まじだと思う?」
まーくんが私に言う。私はうーん、と唸った。
「タッキーと示し合わせて男子に気合を入れさせようとしてる説はある。タッキー全然驚いてなかったし。」
「でも、本当に校長先生が言い出したことだったとしたら怖いよね。」
真央が言った。
「そしたら僕、女になります…。」
凛くんが悲しそうに言う。確かに凛くんなら女装すれば何の問題もなく女子の大会に出られそうだ。
「そうじゃないでしょ。」
楓が凛くんを睨みつけた。
「優勝すればいいんだよ。」
「楓ちゃん、良いこと言った!」
真央が言う。紗月はあくびをしながら男子に言った。
「男子ファイト~。」
「くっそ、女尊男卑か。薄々気づいてはいたけど…。」
まーくんが苦々しげに言う。
「そんな言葉、ここでしか聞いたことないけどね。」
私は肩をすくめて言った。
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