レナ ~episode 4~

 「ガイ・リッチー監督の『シャーロック・ホームズ』、あれ観た?」

私が自分の席から身を乗り出して鳴海くんに聞くと、鳴海くんがにっこり笑った。

「もちろんだよ。ちょっと、想像していたのとは違ったけどね。でも、あれはあれで面白かった。」

「シャーロック・ホームズって、色んなバージョンで映画化されたりドラマ化されたりしているから、色んな楽しみがあっていいよね。」

私はウキウキしながら言った。と、麗華が振り返る。

「二人とも、シャーロック・ホームズ好きなの?」

二人で顔を見合わせ、頷く。

「私も好きなの。」

麗華がそう言ってにっこり笑った。私が顔を輝かせて鳴海くんを振り返ると、鳴海くんがほんのり頬をピンク色に染めていた。私は心の中でにやりと笑う。ははーん、なるほどね。まあ、これほどの美少女じゃ仕方あるまい。私が会話を続けようと口を開くと、麗華は気が済んだのか前に向き直ると、いつも通り読書に戻ってしまった。私はそのマイペース度合いに吹き出す。やっぱり面白い子だ。

「ねね」

それから私は椅子を鳴海くんの傍に寄せ、内緒話をするように小声で聞いた。

「鳴海くん、麗華のこと好きなの?」

鳴海くんの顔が真っ赤になる。

「そうなのね。」

「やめてくれよ。」

鳴海くんが言って、私をベランダに引きずり出した。

「完全なる片想いなんだ。バレたらどうしてくれる。」

「麗華の場合、鳴海くんの恋心を分からせるほうが難しい気もするけどね。」

私が言うと、鳴海くんが苦笑いした。

「確かに。」

それからにやっと笑って私の顔を覗き込む。

「そういう栗原さんは、好きな人いないの?」

「栗原さんって、そんな他人行儀なのやめてよ。玲奈、でいいから。」

「俺も、一樹でいいよ。」

「オッケー。」

私は言って、少し考える。

「一樹くん。」

「じゃあ俺は玲奈ちゃんって呼ぼう。」

一樹くんが言って、それから私の肩を小突いた。

「っておい、話そらすなって。」

「バレたか。」

私は笑った。友達と恋愛話なんて今までしたことないけど、一樹くんだけに言わせるのはなんだか申し訳ない気もした。

「私も片想いなんだけどね」

思い切って、打ち明ける。

「亮のこと、小学生の頃から好きなの。」

一樹くんが目を見開く。

「一途だなぁ。でもうわ、めっちゃお似合い!超美形カップルになるやん。」

「それが、だめなの。」

私はため息をつく。

「あの人ね、ころころ好きな人変わるんだけど、それを毎回私に報告してくるの。で、皆小動物系の可愛い子ばっかり。私とは真逆なんだよね。」

「え、そうなん?」

一樹くんが意外そうに言う。

「サッカー部でも恋愛の話とかするけど、兼城の口から女子の話は聞いたことないけど。」

私からしたらそっちの方が意外だった。いつもチャラチャラと気軽なお喋り感覚で話してくるから、男子の間でも女の子を弄ぶキャラを演じてるのかと思ってた。

「しかもアイツ、結構そういう小動物系にモテるよな?でも毎回告白なりデートなり断ってるから、玲奈ちゃんみたいな美人系が好きで、何なら兼城の片想いだと思ってた。」

私は大きく頭をふった。

「ぜーんぜん。そうだったら良かったんだけど。」

私はため息をつく。一樹くんはとても話しやすかった。友達と恋バナなんて青春っぽい、と私はワクワクする。

「『あの子可愛くね?』とか、『〇〇さんっていいよな』とか、楽しそうにいつも報告してくんのよ?こっちの気も知らないで―」

「何してんの?」

聞きなれた声が後ろから聞こえて、私たち二人はぎくり、と振り返った。亮が教室の窓からこちらを見下ろしている。いつもおチャラけたテンションなのに、それに比べると笑顔が少なく、声が低い。

「いや、ちょっと『シャーロック・ホームズ』の話を。教室だとうるさいから。」

一樹くんが助け舟を出してくれた。私はほっと胸をなでおろす。

「ふーん。」

亮が納得していない様子で言う。

「そろそろ戻ったら?チャイム鳴るよ。」

「はーい。」

私と一樹くんは目を見合わせ、大人しく戸口に向かう。

「聞かれてたかな?」

私がささやくと、一樹くんが首を横に振った。

「いや、流石に大丈夫だと思う。」

「ありがと。」

私が言うと、一樹くんがにっこり笑った。

「今後も色々話そう。」

私も笑って頷いた。そんな私たちを亮は不満そうに見つめていた。

お姉ちゃんをとられた弟みたいな気分なのかな。私は亮を見て、ちょっとそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る