遺言書
小狸
短編
小説を、書くことができなくなった。
いや、それにはやや語弊がある。
書くこと自体はできるのだ。
ただ、それが物語にならない。
駄文をつらつらと
小説が書けない。
それは私にとって、死活問題であった。
別段、私は、専業小説家をしている訳でもない。なんならデビューもしていない。
それでも、私にとって小説を書くということは、ほとんど全てみたいなものであった。
中学から不登校になった。
原因は、いじめを受けたからだった。
中学は、他の小学校が統合されてきてクラス数が増え、私は仲の良かった友達とは違うクラスになってしまった。
女子のグループに上手く馴染めなくて、気が付いたらクラス全員に無視されていた。
過呼吸を起こして、その日から、学校に行けなくなった。
両親は私を、腫れ物として扱うようになった。
皆は普通に高校に進学した。
私は、卒業式すら、行くことができなかった。
高校もどこにも、入学することができていない。
そのまま1年が過ぎた。
今や1日も、カーテンを開ける日はない。
外出することもほとんどなくなった。
母は、私の部屋の前に食事を置くだけになった。
いつからだろう、家族そろって食事をしなくなったのは。
妹は、今年中学受験である。
私は極力音を立てないように、静かに生きている。
私にとって、今できることというのは、小説を書くことくらいなのである。
ネットで小説を投稿しては、人から「いいね」をもらい、承認欲求を満たしていた。
「いいね」をもらえるのは、嬉しいと思えた。誰かが自分の書いた文章を読み、何かを思ってくれる。それは、私がかつて落伍した学校生活、社会活動に通ずるところがあったからだろう。
そんな中。
私は、小説を書くことができなくなった。
アイディアが湧かないとか、そういう次元ではない。
もう文章が文字の羅列にしか見えず、どんな物語を出力しようとしても、それが
生きている価値を、失ったと思った。
死のう。
そう心を決めるまで、時間は掛からなかった。
それから、死ぬ準備をした。
とは言っても、ただパソコンの周辺機器からケーブルを引っこ抜き、天井に括りつけただけだけれど。
部屋は広くはないが、高さはあるのである。
引っ張って強度を確かめた。
うん、これなら、死ねる。
生きる理由も、元からなかったようなものだ。
これから先、生きていても、どうせ人生の落伍者だ。
だったら、今、死んだ方が幸せだろう。
そう思って、私は。
支えの椅子から、足を離した。
さようなら。
最後まで、駄目でごめんなさい。
生まれてきて、すいませんでした。
(終)
遺言書 小狸 @segen_gen
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