ミキの部屋

「ここに来て三ヶ月半か…」

 ミキはため息をく。


 目の前には未開封状態のダンボール箱が四個ほど積まれたままになっている。

 衣装箪笥クローゼットからは、洗濯が済んだ夏服がはみ出している。


 七夕飾りが街を彩っていた頃に始めた一人暮らし…楽しかったのは、最初の二週間だけ。

 誰も待っていない部屋を持て余し、外に出ても、身寄りがいるわけでもない。


 手続きの問題から学校へ通えるようになるのは、二学期から…。

 ミッ君は部活が忙しいらしく、会えず終いで夏は過ぎ去っていた。


◇ ◇ ◇


 ふと、玄関の呼び鈴が鳴る。

 ミキは立ち上がると玄関に向かう。


「どなた?」

 ドア越しに相手に声をかけるミキ


「私たちだよ〜!

 手伝いに来たよ〜!」

 最近すっかり聞き慣れた女の子の声


「いらっしゃ〜い!」

 言うが早いか、早速ドアを開きマキとエリ親子を招き入れるミキ。


「「お邪魔しまぁ〜す。」」

 トレーナー姿の親子は笑顔で部屋に入った。


 エリは台所の片付けに入り、マキとミキはの片付けに入っていく。

「いいなぁ~、うらやましいなぁ~。」

 マキは部屋のカタヅケを手伝いながら、キョロキョロと部屋を眺めている。


「今度の引越し先には、私たちの小部屋もあるんでしょ?」

 ミキが首を傾げる。


「そうなんだけどね…。

 今まで自分の部屋なんて無かったし、どう飾れば良いか分からなくって…。」

 ピンクのレースカーテン、ホワイト基調のレトロチックな書棚、そしてローズレリーフのあしらわれた白いチェスト…。

「いいなぁ~、女の子の部屋だね。」

「…。」

 マキのべた褒めに恥ずかしそうにうつむくミキ。


 さて、部屋を眺めていると…白い猫脚テーブルの上に見える深緑色のアルバム。

「ねぇねぇ、このアルバム…。」

 そう言って、アルバムを手に取るマキ

「あ!それは…。」

 ミキが手を伸ばすが…マキはアルバムを開く。

「素敵…。」

 マキのつぶやきに驚くミキ。

 アルバムの写真は家族連れで出かけた旅行先や学校行事の集合写真など、ミキにとってはありふれた風景の一コマばかりだった。

「私ね、お父さんが居なかったから…。」

 マキは母子家庭、それも彼女が生まれた時には、既に父親は故人になっていた。

 だから、マキにとっては、ミキのありふれた風景がとても羨ましく、そして美しく見えていた。

 マキの一言で、二人の間に気まずい空気が流れる…。


 無言のマキが、さらにページを進めると、一枚のスナップ写真が登場する…そう、小さな小さなカップルの写真。

「これ、ミツオ君?」

「そう、ミッ君だよ。

 やっぱり判るよね。」

 場の空気が一気に和む、そこに写っていたのは小学校低学年のミツオとミキ。


「変わらないのね…。」

 マキが目を細める。

 写真のミツオは、顔のあちこちにタンコブを作っておきながら笑顔で、泣き顔のミキの手をしっかり握っている。


「そうね…。

 ミッ君、いつも優しくて、私を助けてくれるの。」

 ミキは微笑んだ。

「意識はしてなかったけど、私この頃から好きだったのかも知れない…彼のこと。」

「そう…。」

 ミキのツブヤキに笑顔を返してはみるが、返す言葉に詰まってしまうマキだった。


 さて、二人がアルバムを眺めようと次のページに手をかけた矢先、台所からエリがやって来る。

「こらぁ~、ちゃんと片付けしなさぁ~~~いっ!」

「「はぁ~~い!」」

 エリのお叱りに、アルバムを机に置き、慌てて部屋の片付けを始めるミキとマキ。


「あんな幼馴染…私も欲しかったなぁ…。」

 ダンボール箱に荷物を収めながらマキの心の声が漏れてしまう…。


「えっ?

 なにぃ~?」

 部屋の片付けをしているミキには聞こえていない。


「何でもない!

 ところで…。」

 ダンボール箱へ仕舞う荷物について確認を取り合うミキとマキだった。


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【次回予告】

 マキです。

 はぁ~~、小学生のミツオ君、かぁわぁいいぃ~~!

 今もかわいいけどね♡


 さて次回は『マキの告白』

 は?何このタイトル!

 ちょ…ミキも目をキラキラさせて聴衆にならないでぇ~~~!!

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