消したい過去

 エリに抱き寄せられ、ようやく落ち着いてきたミキ。

に話してみない?

 何があったの?」

 マキも母親エリの肩に顔をもたげかけ、ミキを優しく見守っている。


「私ね…」

 ミキは語り始めた…


 ~消したい過去 ミキside~


 私の通っていた日本人学校は中高一貫校でした。

 中学生になり、戸惑っていた私を優しくサポートして下さったのが、佐藤先生でした。

 若く熱心な先生で、しだいに私も好意を持つようになりました。


 そして高校生になり、迎えた五月に、佐藤先生から呼び出しがありました。


 理科準備室に後藤先生と二人…。

 彼が、私の頬に手をあて顔を近づけてきます。


(ああ、私はここで初めてを…)

 そう思い、目を閉じようとした刹那、彼と目が合いました。

 …極彩色のマーブル模様になった男の瞳


 私は生理的な嫌悪を感じ、彼の手から離れました。

 そして改めて見えた佐藤先生の顔は、鼻も膨らみ、口元はいびつゆがんでいます。


「イヤァ~~~ッ!」


 離れようとする私の手を強引に掴み、反対の手で私のブラウスを下着ごと引き剥がす佐藤先生。

 私が恐怖のあまり抵抗できずにいると、彼の顔は更にいびつになり、近づけてきます。


 恐怖のあまり、私は目をつむりました、その瞬間、ミッ君の怒った顔が表れます。

「ミキ、負けるな!」

 ミッ君は、とても怖い顔つきで訴えてきます。


「どんな相手でも、太モモの付け根を蹴れば動けなくなる!」

 そう言って、ミッ君は消えていきます…。

「ミキ、負けるな!」

 そう言いながら…。


 目を開くと、今まさに佐藤先生の唇が私の唇を奪いそうな距離。

 ミッ君の怒った顔で、恐怖に強張っていた身体もいくらか動くみたい…。

 ミッ君に言われた通り、佐藤先生の右太モモの付け根を蹴ります。


 佐藤先生の動きが鈍り、彼の顔がまた離れます…でも、私の手は掴まれたまま。

 もう一度同じ場所を蹴ると、彼の手が私から離れました。


 理科準備室を抜け出し、何処をどう逃げたのか覚えていません。

 気付いた時には、私は自宅の自室…部屋の隅に座っていました。


 部屋の外では、メイドが私の名前を呼んでいますが、答えることは出来ませんでした。

 目を閉じれば、佐藤先生と接吻する嫌なイメージがまぶたの裏に出てきます。

「イヤァ~~~ッ!」


 私は目を見開き、部屋の暗がりをぼんやりと眺めるしかありませんでした。


 後から、母が教えてくれたのですが、私は服の前がはだけたまま言っていたそうです…。

「ミックン…タスケテ…

 ミッ…クン…タス…ケテ…

 ミッ…ク…ン…タス…」


 それから私は学校へ通えなくなりました。

 母も事情を理解してくれました。


 しかし、このままでは私がダメになると思ったのでしょう。

 母は私とともに、カウンセラーの手配などをしていた矢先、日本から電話がかかってきました。


 それがミッ君のお母さんからで、トントン拍子に話は進み、私だけ日本に帰ることになりました。


 …


「で、ここに居るの。」

 涙で赤らんだ瞳を笑顔でごまかし、エリとマキに視線を送るミキ。


「「まぁ、あの人ならやりかねないわね。」」

 エリとマキは頷き、ミキを抱きしめた。


 ◇ ◇ ◇


 夕食を済ませ、そのままマキ邸へお泊りをすることになったミキ。


「ええ…ええ…

 ミキちゃんはお泊りするから、お迎えは要らないよ。

 うん…うん…

 じゃぁねぇ~、おやすみなさ~い。」

 今しがたマキがミツオに電話を済ませたところで、ミキがお風呂から上がり、マキの部屋に入ってきた。


「連絡ありがとね~。」

 恨めしそうな顔のミキに、満面笑みのマキ。


「さぁ、寝ましょ♪」

 電灯を消そうと立ち上がった時に、不意に涙をこぼすマキ。

 その所作を目ざとく見つけるミキ。


「どうしたのマキ?」

 ペタンと座り込むと呆けているマキ

 …慌ててマキの顔を覗き込むミキ


 しばしの時間を置いてマキは呟く。

「ゴメンナサイ…ちょっとフラッシュバックしちゃって…。」


 そんなマキの隣に座り直したミキが、マキの頭を膝の上に乗せ、語りかける。

「白状しなさい…

 お姉さんが聞いてあ・げ・る!」



 ~消したい過去 マキside~


 インターハイの説明会から帰る途中、他校の制服を着たガラの悪い男子生徒五名に拉致されたマキ。

 サバイバルナイフで柔肌にキズを付けない程度に制服や下着を刻んでいく男たち。


 マキは恐怖のあまり身体が強張っていた。

 そして、男たちがマキの身体をもてあそぼうと動き出すタイミングで、彼らに声をかける者が現れる。


「おいっ!

 うちの生徒に何してくれてるん?」

 男たちが振り返り、マキの視界にも微かに映る同じ高校の制服を着た男子生徒。


「…安達…クン?」

 ほぼ全裸状態のマキはモジモジするが、男に四肢を押さえられ身動きが取れない。


「よぉ~、お嬢さん。

 ちょっと待ってな!」

 右腕にギプスを付けたミツオが悠然と男たちに近づいてくる。

 その瞳はケモノを思わせるほど鋭く鋭利に輝いている。


「やっちまえっ!」

 中央にいる男の指示を受け、マキの足元にいた男二人がナイフをかまえながらミツオの方へ走っていく。

 二人の男がナイフを振り下ろす瞬間、ミツオは男たちの間合いの内側へ入り、ギプスの腕で二人の顔面を殴り抜ける。

 二人の男は膝をついて倒れ伏す。


「何しやがった!」

 腕を抑えていた男たちがミツオの方へ走っていく…ナイフを振りかざし。

 そして、リーダー格の男はマキを抱き起こすと、彼女を盾にする。


「オイ、お前っ!

 変な気を起こしてみろ…」

 リーダーがマキの首元にナイフを近づけたところで、腕のところにいた男たちも顔に大穴を開け、仰向けに倒れている。

 さらに歩み寄ってくるミツオ。


「それ以上近づいたら…」

 リーダーはマキの首元をナイフで切りつけ、血が滴り落ちる。

「コイツの首と胴体がサヨナラするよぉ~」

 そしてセセラ笑う。


 しかし、ミツオは近づいてくる。

「やってみなっ!

 そんときゃ、あんたの五体をバラバラに刻んで、カラスの餌にしてやるよ。」

 怖い笑顔とケモノの瞳…マキは気絶しそうになり足の力が抜け、崩れ落ち始める。


「くそったれがぁっ!」

 バランスを崩したマキを捨て逃げだすリーダー。

 しかし、ミツオは彼の前に回り込む。

 リーダーはナイフを突き出し、ミツオの右肩にキズを負わせ下卑た顔になる…。

 が、次の瞬間ミツオはリーダーの懐に飛び込んでいる…肩のキズを気にも留めず。

 ミツオの放つギプスの肘鉄を頬に受け、リーダーは地面に倒れ伏した。


 マキが気付いた時、彼女は別の女性に体を支えられ、身体にはタオルのようなものが巻かれていた。

 …


「そう、ミッ君のあの顔を見たのね。」

 ミキの言葉にマキは頷いた。


「そして、キョウコさんにも会ったわけね。」

 ミキの言葉にマキは再び頷いた。


「でも、どうして彼のことを好きになったの?」

 マキは真っ赤になって横に顔を向けた。

 そんなマキの髪を優しく撫でるミキだった。


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【次回予告】

 ミツオです。

 主人公なのに、登場は回想シーンばかりってどうなんでしょう?


 さて次回は『秘めたる思い』

 えっ?

 オレってそんなに好かれてるの?

 て…て…てれるじゃないかぁ!

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