デート-4

彼女が立ち止まったのはクレーンゲームの前だった。そこには猫を模した可愛いぬいぐるみがあった。詳しくは知らないが最近流行っている漫画のキャラだ。大人な印象だったが、やはり女の子なんだな。


そんな事を思いながら彼女の顔を覗くと、違和感を覚える。彼女の視線はそのぬいぐるみではなく、別の何かを捉えているようだ。辿ってみると思いもしない物が目に入る。それは今人気のゲームのグッズであった。それもFPSと呼ばれるギャルには似合わない種である。私は探りを掛けてみる。


「そのゲーム、面白いですよね。」


すると彼女は綺麗に餌へ食いついた。


「ですよね。私も毎日やってて、まだランクはAですけど。まさか、グッズがあるなんて。」


弾丸のように喋り続ける彼女。どうやら私以上にこのゲームをやっているらしい。


私は彼女の新たな一面を見れて高揚していたのだろう。根拠のない自信が湧き出ると私は百円玉を手に持っていた。


「俺が取りますよ。」


漫画でよく見るシーンだ。主人公がヒロインの為に華麗に景品を手に入れるデートイベント。先程の「待ってないよ。」は笑われてしまったが、ここで挽回する。


しかし、私は絶望的にクレーンゲームが下手だったらしい。入れた玉の数は二十枚を超えるが物は不動明王のように立っていた。


「えっと…楠さん?もう大丈夫だから。」


「いや、もう少し。あとちょっとで取れるはずなんだ。」


「いや、一切動いてないから。もう可能性のかけらさえ見えないから。」


「コツは掴んだ。あと五回…十回ぐらいで取れるはずなんだ。」


「えっと、そうだ!あれ!あれ!やってみたいです!」


半ば引き剥がされる形で連れてかれたのは音ゲーと呼ばれる台だった。音楽に合わせて流れてくるノーツを押すという単純だが難易度の高い面白い遊戯である。


「一人だと中々やれなかったので気になってたんです。」


一人で来たことあるんだ。


「そうなんですね。俺も最近はあまりやってなかったんで、やってみますか。」


横並びに立つと同時にコインを入れた。私は彼女の画面を見ながら操作方を教えてあげる。


ああ、そういえば昔にカップルで遊んでるのを見てイラッとしたな。まさか、自分がそっちの立場になるとは。感慨深いな。


「…く、楠さん?!す、すご…」


彼女がそう呟いた。すご…凄い?そ、そうか!忘れていた!私の少ない特技の一つ。それが音ゲーであったことを。


最高難易度の譜面を手の感覚を頼りに捌いた。捌き続けた。手の感覚が無くなるほどに。爽快であった。彼女に褒められた。その小さな出来事が私のエンジンをフル回転させた。


しかし全てが終わった後、後悔の念に苛まれた。


恥ずかしい…側から見たら変人だっただろう。女の子を放ったらかしにゲームにのめり込む男。昔の私がその姿を見たら、ああはなるまいと思ったはずだ。


だが彼女は、蝉の抜け殻のように壁へ張り付く私に微笑みを向ける。


「ふふ、楠さんて面白い人ですね。」


その後の記憶は曖昧である。昼食を食べて、話をして、歩いて、その日は終わった。


ただあの時の笑顔だけはっきり覚えている。

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