6.王様
昼の学校。
カーテンで締め切られた体育館の舞台の上。
そこには演説台だけが置かれていて、強烈なスポットライトに照らされている。
そこに一人の高校生が目安箱をかかえて向かう。そして、演説台に立ち、目安箱を置く。彼は壇上の高校生と同じ制服を着た全校の生徒たちをみつめる。
だれもが彼に、釘付けだった。
今回はテレビカメラはなかった。
代わりに、誰もがスマートフォンのカメラを向けていた。
王様「今日は、生徒会が教師の逮捕作戦を完遂したことを報告できます。
この教師は、生徒会に隠れて横領を行っていました。
空想世界のなかで、誰よりも上の、勇者になるために」
静まり返る体育館で、王様は続けた。
王様「この教師は勇者になるため、かつての生徒会をそそのかしました。
空想世界に金を費やすよう誘導したと、のちの調査で認めたのです」
勇者と剣道部は呆然としていた。
勇者「そんな……どうやってそれを調べたの……」
つぶやくような勇者の言葉に答えるかのように、王様は語る。
王様「我々は首輪つきです。しかし、正しいやり方で正しく勝つのなら。
大人である先生達は、極めてオープンに情報を示してくれました。
これで、我々の学校の信用を失墜させた偽物は、完全に取り除かれました」
ざわめきが収まった頃、改めて王様は語り始めた。
王様「改めて、勇者とはなんなのか。
私はあの偽物を倒した勇者を思い出しながら、こう考えています。
上下を語るまでもなく。
誰かのせいにするまでもなく。
誰かを育てることも厭わない人なのだと」
体育館にいる剣道部員達は、にこにこと笑う。勇者は頬に手を当て、顔を背けている。
王様「来年、連邦生徒会長の選挙があります。
我々はこれから、この生徒会の勇者を応援することになるでしょう。
ですが、我々にできるのはそれだけではありません。
我々もまた、勇者を少しでも真似し、手助けすることはできるのです。
上下を語る前に、話を聞くことが。
誰かのせいにする前に、重荷を分け合うことが。
隣にいる人と、世間話をすることが。
そんな我々もまた、連邦生徒会長になりうるのです。
いまは難しく感じるかもしれません。
そんな時にこそ、私たち生徒会を頼ってほしいのです」
うつむきかけた生徒達が、顔をあげる。王様は目安箱を掲げる。
王様「すでに私と話したみなさんにとって見覚えのあるこの目安箱。
ここに、いま難しいと思ったことを書いてほしいのです。
私たちのボロボロの生徒会にできることは、ほとんどありません。
ですが、これだけはお約束します。
私は、必ずそばにいます。
これが、かつての生徒会の責任を背負わされ、
運命のいたずらで連邦生徒会長にされてしまった……
哀れな人間なりの、勇者のまねごとです」
笑みが周囲を満たす中、王様は言った。
王様「勇者の皆さん、一緒に進みましょう。
役立たずの王からは、以上です」
そして王様は、拍手が満ちるなかで立ち去っていく。
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