5.偽物

 教室に村長と担任がいる。


担任「(スマホをみながら)また小テストの成績が悪かった」

村長「ところで、担任の先生ってどんなゲームをやってるんですか?」

担任「なんだって」

村長「私、気になって……」

担任「……RPGだよ」

村長「私も大好きです!」


 たじろく担任。


村長「どんなタイトルのをやってるんですか?」

担任「おれてん……」

村長「おれてん?」

担任「勇者の俺が転生から戻ってきて無双してる件」

村長「ああ、私の友達もよくやってておすすめされてました!

   すっごく面白いって!」

担任「そう。そこらのソシャゲとは違う。

   リアリティある広大なフィールド。

   壮大な物語。

   なにより、リアルタイム戦闘システム。

   簡単じゃないが、いずれ勝てるようになる」

村長「先生って、結構やりこまれてるんですか?

   友達も、ダイヤ帯に行くのが夢なんだって」

担任「かなり大変だった。だがいまは……ダイヤ帯だ」


 そして、担任はスマホの画面を見せる。


村長「ダイヤ……すごいですね!よくみせてもらっても?」


 担任はうれしそうに笑って応じる。そして、スマホを手渡された村長は、走り出す。


担任「おい、なにするんだ!」


 村長を追いかけて担任も走る。


 出てきたその先に、イヤホンをつけた剣道部たちが竹刀を携えてやってきて、全員それぞれでイヤホンをはずして、ひとりずつ村長のスマホをのぞきこんでいく。


大将「ほんとにダイヤ帯か」

副将「間違いない。ここの給与では払いきれない。

   だが、この課金履歴は……すごいな。

   これが、曲がりなりにも政府が関与した学校の予算か」


 副将はそういいながら近くの剣道部にスマホでさらに写真を撮影させていく。


大将「ああ、ランカーは、大富豪だけ。

   課金の時期は、かつて生徒会の顧問だった時期と一致する。

   そうだよな、担任の……ウィンドブレーカーさん」

担任「な、なんだ、お前たち」

大将「俺らも好きなんすよ、このゲーム」


 担任は少しずつ後ろに後退していく。


担任「でも、ゲームもまた、上に立つことだけがゴールじゃない。

   ですよね。上様」


 竹刀を持った勇者が、担任の退路に立つ。


勇者「ええ、それが、剣道部のみんなにずっと教えてきたことだから」

担任「副生徒会長……どういうことだ……」

勇者「王様。クエストは果たした」


 そして、剣道部員達のところへ、王様と先生が現れる。そして、スマホの中身を改める。


王様「間違いないですね、先生」

先生「ああ。生徒会にかつていた連中は、すでにアカウントを放棄した。

   プレイヤーですらいられない。

   政府の金でランカーとやらになれるのは。

   担任。あんただけさ」


 竹刀を抱えたひとりだけの勇者が言った。


勇者「横領罪で、現行犯逮捕する」


 担任は急いで勇者を通り過ぎようと走る。そこに、勇者は剣を振り下ろす。担任は痛みで倒れる。


勇者「もう無駄な抵抗はしないで」

担任「お、お前さえいなければ……」


 担任は、勇者へとなぐりかかろうとする。勇者はすかさず振り払い、さらに倒れる。


勇者「まさか先生も……予算を横領して。

   あげくスマホゲームに課金してたなんて……」


 痛みに絶え絶えの担任は言った。


担任「なあ、だまっていてくれ。副会長。

   俺は、勇者に……」

勇者「黙れ!」


 担任は身を震わせる。竹刀を携えた勇者は言った。


勇者「あとの必要なことは、ぜんぶ……

   大人の前で話せばいい」


 怒りに震えた担任がさらに立ち上がる。そこに、背を切るように大将が叩き込む。担任はたたらを踏みながら、倒れる。


大将「上様、お怪我は……」


 勇者は首を振る。勇者のそばに、スーツの大人たちがやってくる。そして、担任を取り押さえていく。そして立ち上がらせた時、そこには王様がいる。


王様「担任。なんでこんなことを?」

担任「勇者に、なりたかった……」

王様「勇者?」

担任「お前らなんかよりも上の、勇者に……」

王様「(ため息をつき、)上下を語る勇者を、僕が推薦することはない」


 担任は怒りで唇を結びながら、先生とスーツ姿の大人達に連れて行かれる。


勇者「どうしよう。

   今度は先生が横領してたことをみんなが知ったら。

   もう信頼も何もない。

   学校は、もう……」


 残された生徒達は呆然としている。そのなかで、王様が言う。


王様「心配することはないよ」


 全員が王様へ向く。


王様「クエストは果たしてもらった。

   あとは、僕がやる」

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