3.大将

 剣道部員達が練習している中に、王様、村長が現れる。

 そして王様がひとりに声をかける。


王様「へい大将!」

主将「王様!(部員達に振り返る)全員集合!」


 大将と副将、さらには部員達が王様と気づくと足早にやってくる。そして肩をたたく。


大将「あの演説、ほんとにかましやがったな!」

王様「ああ!あんたらの言ってた大人の顔色は?」

副将「青から赤までぜんぶさ!」

王様「ほんとに信号機になってくれたか!」


 王様と部員達が大笑いする。そのとき村長が驚く。


村長「もしかしてあの演説って……」

王様「ああ、僕たちの合作さ」


 部員達が笑う。


大将「おいおいかんべんしてくれ、俺らは助言しただけだぞ」

王様「なんだ、責任から逃げるのか?」


 王様が親指で後ろを指す。そこに、仁王立ちした勇者がいる。


大将「う、上様……」


 部員達が全員平伏していく。


勇者「まさか、あんたたちの差金だったの?」

大将「いや、その……これは……」

勇者「私とアイドルを戦わせたくて、あんな演説をさせたと?」

副将「恐れながら上様、あなたはもう……」

勇者「(ためいきをつき、)もうよしてよ、顔あげて」


 部員達全員が恐る恐る顔を上げる。勇者は腕を組み、王様に訊ねる。


勇者「このボンクラどもを焚きつけても、武道館は埋められないけど?」

王様「これからそうなるさ」

勇者「あんたもボンクラ側か、じゃあ現実教えてあげる」


 勇者がスマホを開く。


勇者「高校生アイドルグループが生徒会入り。

   ほかにもVtuber、アーティスト、俳優すらも生徒会入り。

   目的は、連邦生徒会長への立候補。

   このニュースたちが、あんたの演説を有名にしたの」


 王様は勇者のスマホを覗く。


王様「おお、普通の選挙なら消えてる候補が続々……」

勇者「あんたは私たち候補者をけなしてるの?ほめてるの?」


 大将が膝をついたまま答える。


大将「いえいえ、上様の御威光があれば、かならずや連邦生徒会長も……」

勇者「(ためいきをつき、)そもそもなんで私にいつもその態度なの、ここのみんなは……」

大将「上様が俺たちを強くしてくれた恩、忘れちゃいません」


 勇者は驚いたように沈黙する。


大将「俺たちを強くしてくれたから、上様の言葉の意味もわかったんです」

勇者「それは……」

副将「それに俺たちにも、責任があるんです。

   俺たちを見てくれてたから、上様は生徒会にいけなくて……」

勇者「それは気にしないでって言ってるでしょ」

副将「だから、いまの上様を手助けしたいんです。

   俺たちの上様が、ほんとの勇者なんだって証明してやりたいんです」


 たちすくむ勇者に、村長は王様に近づく。


村長「これが、あの演説を作り出した原動力……」

王様「すごいでしょ?部活を一つでも盛り上げる、これで完了さ」

勇者「ちょっと外野!

   もう、こんなんばっかだからここにはいられなかったのに……」


 王様は村長に言った。


王様「照れてるな」

村長「ええ、照れてますわね」


勇者「(大きくため息をつき、)わかったわかった。

   私も、宣伝目的の連中に負ける気はないよ」


 剣道部員全員が勝鬨をあげる。


勇者「でも、これは選挙。

   いずれ本物がやってくる。

   あんたたち剣道部だけじゃどうにもならない。

   どう勝てばいい……」


 全員が思い思いに悩み始める。


大将「上様、いっそアイドル勇者なんてどうです?」

勇者「不敬にも程がある」

大将「いえいえ、いま想像いただいてるものとは違います」

勇者「どういうこと?」

大将「目安箱にある依頼をこなしていくのです。当然、我々も手伝います」

王様「なるほど、クエストだね?」


 王様はそういいながら目安箱を掲げる。


大将「そう。みなさん、上様のことをまだ知らないだけです。

   ですから、目安箱の手紙の依頼を、上様がこなすだけです」

勇者「一年後の政策とかは?100万円給付とか」

大将「未来の100万円より、いまの手助けです」


 勇者が戸惑うように立ち尽くす。


副将「難しく考える必要はございません。

   そこの王様の手管とおなじです。

   ひとりずつ話を聞きにいけばいい」


 ふと勇者が気づいたように振り返る。


勇者「そういえばあの膨大な目安箱の手紙、どうやって集めたの?」

王様「自作自演さ」

勇者「全部筆跡がちがったでしょ」

王様「まあその、ここの生徒会長になる前にみんなと世間話をね……」

勇者「(ためいきをつき、)それで、このボンクラどもに取り入ったと」


 剣道部員達はうれしそうに笑っている。


大将「俺らだけじゃありません。

  上様のことを先に大人に広めといてくれたのも、

  この王様ですぜ」

勇者「え、そうだったの?

   だから、みんなあんなに私に……」

王様「(せきばらいし、)勇者よ。クエストを受注するかな?」


 王様は微笑んで目安箱を差し出す。


勇者「ええ」


 勇者が目安箱から新たな手紙を取り出し、中身を開ける。そして眉間に皺を寄せる。


勇者「これは……」

王様「なんだい?」

勇者「担任の先生の……討伐、任務?」

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