1.勇者

 ひとりの女子高校生が走ってる。通りがかりのスーツの人たちが声をかけてくる。


大人「がんばってね、勇者さん!」

大人「気をつけてね!」

大人「がんばれ〜」


 高校生は生徒会室に入る。竹刀の横を通り過ぎる。

 王様は生徒会室で、また目安箱に入れられた紙たちを仕分けしていた。


王様「名前なし、名前なし、名前あり……」


 王様に彼女は言った。


勇者「なにしてるの!」

王様「ああ、もどったんだね、勇者さん」


 勇者は王様から目安箱を取り上げる。


勇者「なにあの演説!バカにしてるの!」

王様「とんでもない」

勇者「じゃあなんであんなふざけたことを言ったの!」

王様「(ため息をつき、)いつも通りじゃないか、勇者さん」


 勇者は目安箱を机に強く置く。


勇者「あんな大勢の前で!しかも大統領もいたのに!」


 勇者は彼の胸ぐらをつかむ。


勇者「みんなに失礼だと思わなかったの?」

王様「つまらん話のほうが、よっぽど失礼でしょ」

勇者「あんたは道化師になるために生徒会長になったの?」

王様「……そうさ」

勇者「ならあんたのコント、つまんなすぎる!」


王様「(ため息をつき、) そりゃ困ったなあ。何がいけなかったんだ?」

勇者「それは!それは……」


 勇者はゆっくりと胸ぐらをつかむのをやめていく。


王様「ごめん、卑怯な手だった」


 勇者は顔を上げる。


勇者「誰にとって!」


 王様はひといきつき、答える。


王様「君にとってだ」


 勇者が戸惑っていると、王様は目安箱を大事そうに抱え、勇者に背を向けてあやしはじめる。


王様「僕の話を信じる奴なんか、誰もいない。

   大統領が同じこと言っても、みんな信じない。

   だから、君には怒ってほしかった」

勇者「私を怒らせて、どうしたかったの!」


 王様は勇者へゆっくりふりかえる。


王様「君に、連邦生徒会長になってほしいんだ」

勇者「えっ……」


 目安箱を抱えた王様は、竹刀を顎で指す。


王様「君がかつての、政府とつながっていた生徒会の横領を暴いた。

   君が勇者じゃないなら、なんなんだ?」

勇者「それは……」


 王様はふたたび勇者に背を向ける。目安箱を抱き、目安箱をあやすようにゆっくり揺れながら続ける。


王様「この学校は、すでに焼け野原だ。

   でも、ここには確かにみんながいる。

   がんばろうとして。

   傷ついて。

   あきらめてしまった、みんなが……」


 王様は勇者へ振り返ってくる。


王様「僕はみんなの言葉を使うことしかできない。

   僕はもう、勇者じゃないから」


勇者「(ため息をつき、)またその話……」


 王様はゆっくりうなずく。


王様「僕は旅をした。世界を救った。

 でも戻ってきた時、剣も力も仲間も、みんななくした。

 だから、僕の話を信じる奴なんか、誰もいない」


 わずかな沈黙のあと、


王様「でも、いっしょにいてあげることはできる」

勇者「……それが、竹刀を振り回すだけの私でも?」


 王様はゆっくりとうなずく。


王様「みんな、いまごろ必死で候補を探してる。

   でも僕は君を推薦すると決めた。

   なら、僕らはリードしてるよね」


 そして、王様は大事そうに抱えていた目安箱を渡してくる。


王様「まずみんなと、やり直そう。

   君はずっと前から、副会長だったんだから」


 勇者は目安箱を抱き抱えて、目安箱をみつめる。


勇者「怖いよ、私は……」

王様「大丈夫。僕が、いっしょにいてあげる」


 勇者はゆっくりと、目安箱からひとつの手紙を取り出す。


勇者「同じクラスの学級委員長が、助けを求めてる……」

王様「村長が困ってるのか。なら準備しよう。

   さっき仕分けしてたやつとも関係してるかも」


 王様はふたたび席につき、仕分けしてた手紙を読み始める。

 勇者は王様を見つめ、呟いた。


勇者「ほんとに、勇者だったのかも……」

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