第8話 今か元か

 「ミケ」



 俺が一瞬なんのことかわからなくて目をパチクリとさせていると、猫はあらためてもう一度不機嫌そうに俺に言った。



「だから名前『ミケ』っていうの」



 ぶっきらぼうとはいえ、ようやく俺の言葉にまともに返事をしてくれた。

 少し心を開いてくれたのかと思うと少し嬉しく思う。



「ミケか……よろしくな」



 俺はハルを抱えていて手が塞がっているので、握手をする代わりに笑顔を向けた。

 例の如く無表情でそっぽ向かれたけど。

 まだまだ先は長いな……。



「それにしても、服はどこから調達したんだ?」



「お姉さまが、服を小さくしてくれたんです」



 なるほど、魔法で小さくした姉さんの服なのか……。

 そういえばこんな服着てるところ見たことあるな。

 ワンピース系からボーイッシュ系な物まで色々持ってたんだな。

 なんて思っていると、ズボンの裾をクイクイと引っ張られる。



「しゅじんさまー、おなかすいた」

 


ウサミミをひょこひょこと揺らしながらラビはそう主張する。



「さっきチワにも言ったけど、その『しゅじん』ってのやめてくれないか?」

 


俺はラビにそう頼むが、ラビは俺を指差してこう言う。



「しゅじんさまは、しゅじんさまだもん!」



 キッパリと言われてしまい、取り付く島もなさそうだ。

 と言うより、本人はそれどことじゃないらしい。



「ねぇねぇ、それより、おなかすいたぁ――!」



 相当腹が減ってたのか、手足をバタバタさせてゴネ始めてしまった。

 でも、その主張は当然の権利だよな。

 だって餌やる直前での出来事で、こいつら飯を食い損ねてるんだよな。

 呼び方云々とか言ってる場合じゃないな。



「仕方ない、なんか適当に作るか」



 俺は飯の準備をしようと立ち上がり、キッチンへ向かおうとしたが、俺は足を止める。



「ちょっと待て、おまえら何食うんだ?」


 俺はゆっくり彼女たちを振り返りながらそう尋ねた。



「たね」



「にんじん」



「マグロ」



「肉」



「それは動物の時の話だろ」



 今まで俺がこの子たちの世話してたんだから、動物の食べるものは把握している。

 でも、俺が聞いてるのは今の話だ。


 人間になったこいつらに、人間のもの食わせていいのか?


 逆に、動物だった頃のもん食わせていいのか?

 人間の食い物は味濃いから動物に食べさせたらダメって聞くし……逆に人間の味覚になってたら、味ないもんなんか食えないだろうし


 しまった、それだけでも姉さんが出ていく前に聞けばよかった。姉さん明日にならないと帰ってこないぞ……。

 チビたちが騒ぐだろうから、飯抜き……と言う話けにはいかなさそうだし……。



「わかった。とりあえずこの中から好きなもん取り出せ」



 俺は冷蔵庫を開けて彼女たちを呼びつける。

 こいつらが食べたいものを味付けせずに焼くか煮るかだけして食べさせれば、人間の体でも人の体でも影響は無いだろう。

 しかし、手抜きをしようとしたバチが当たった。



「その冷蔵庫の中から何を選べっていうの?」



 めちゃくちゃ冷たい声でミケにそう指摘される。


 そう言われて俺は冷蔵庫の中を覗く、中身はものの見事に空っぽだったのだ。



「しまった、昨日冷蔵庫の食材全部使ったんだっけ……忘れてた」



 どうする、出前をとるか? いや……出前は味付け濃いから、場合によってはリスク高いぞ……。



「買い物……行くしかないのか……」



 くそっ…外出しないで、閉じこもってればなんとか姉さん帰ってくるまでやり過ごせると思ったのに……早速それが無理になるなんて。

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