第5話 禁忌魔法では逆効果

 姉はこめかみを右手の人差し指で押さえながら話を始める。



「魔力が覚醒したら……魔力が覚醒した時に使った魔法を申告して、その魔法を管理委員に見せないといけないの。」



「別に正直に言えばいいだろ、動物を人間化する魔法……あっ!」



 そうだ、魔力が覚醒したことに浮かれていて大事なことを忘れていた。


 動物を人間化する魔法は禁忌なんだ。


 そんな魔法を使ったなんて申告したら、魔法界に戻れないどころか下手したら……。



「この魔法使うとどうなんの!? 禁忌ってことは……捕まんの!?」



「人間化魔法の使用の処罰は、魔力剥奪、魔法界永久会追放」



「マジで!? せっかく魔力覚醒したのに剥奪されんの!?」



 夢にまで見た覚醒だってのに、こんな不慮の事故ですぐに能力取られるとか横暴だ。

 一瞬天にまで昇るような気持ちだったのに、一気に奈落の底へ突き落とされた気分だ。

 俺は床に座り体育座りをしていじけた。



「落ち着いて、未成年で覚醒時の暴発による人間化魔法なら、初犯に限り猶予があるわ。それまでに、修志があの子たちを動物に戻せば、魔法界に戻れるわ!」



「でも戻すったって、どうやって……?」



 試しに、さっきから近くの壁でおとなしくしているネコミミ娘に手をかざして魔法を使おうとしたが、当然さっきのようなミラクルは起こらなかった。



「無理よ、覚醒したばっかで力が不安定だもの。知識も何もなく魔法は使えないわよ」



「でもさっきは使えたぞ?」



「魔法の使い方も知らないのに、偶然使った魔法をもう一度魔法を使うなんて無理よ」



「でも猶予があるってことは期限があるんだろ? それって……」



「今回のケースの場合……政府の申請の有無関係なく一ヶ月以内ならお咎めはないわ」



「……一ヶ月!? 無茶言うなって!!」



 一ヶ月って……魔力操作方法を習得するのがせいぜいの時期だって聞いたことがある。

 禁忌の魔法ってことは魔力操作どころじゃない、もっとレベルの高い魔法だ。

 どんなに頑張っても一ヶ月オーバーは確実……それは姉さんも同意見だったようだ。



「でもそれは政府に申告してからの期限、もともと覚醒した後の申告時期は決まってないし、申告時期をずらして誤魔化せば、半年以内……最悪一年猶予は伸ばせるわ」



「それも超えたら……?」



「さっき言ったように魔力剥奪、永久追放」



「つまり戻れるかどうかは、こいつらを戻せるかどうかにかかってる……ってことか?」



 そう理解した俺は、背筋が凍った。

 ちゃんと基礎魔法が使えるようになるのですら、かなりの時間がかかると聞くのに。

 劣等生の俺が一ヶ月……いや半年や一年以内だとしても、できるのか……?

 そう思い悩んでいると、パリーンと言うガラスが割れる音が聞こえた。

 それと同時に、ウサミミの大きな泣き声が聞こえてくる。



「なんだなんだ、どうした!?」



「ごめんなさいー!」



 驚いて俺と姉さんが駆け寄ると、ウサミミが俺に泣きついてきて、イヌミミが状況の説明をしてくれた。



「すみません、遊んでたら花瓶を落としてしまって」



「いいのよ、怪我はない? 片付けは危ないし私がやるわ、チリトリは……」



「大丈夫です、大事なお話中みたいですし……みんな無傷ですし、私にお任せください」



「片付け方なんかわかるのか?」



「心得ております、こちらのことはお気になさらず、お話を続けてください」



 とりあえず犬耳の子がテキパキ片付けながらウサミミを慰めている様子を見るに、あちらは任せて大丈夫そうだ。



 本当、出来た人間……いや犬だな。

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