第4話 落ちこぼれ、魔力覚醒疑惑

 俺はその言葉を聞いて、一瞬動きを止めたが、すぐに笑い飛ばす。



「あり得ないって、この家に来た半年前にも言っただろ?『魔力覚醒試験』で、魔力がないってその場で言われたって。さっきの喧嘩でも姉さんの魔法に対抗できなかったし」



 だから俺は人間界に来たんだ。

 人間化魔法なんか難しい魔法が使えるなら、魔法界追放になんかならなかったはずだ。



「魔力がないのにどうや……いてっ、いてて!」



 俺は自分じゃないことを釈明しようとしたのだが、近くをウロウロしていたウサミミが俺の髪を引っ張るもんだから、俺はその言葉を発することはできなかった。

 それでも俺の言いたいことは会話の流れで分かったらしい。



「でも部屋が光ったのは、あんなことを言った後だったわよ?」



「あんなこと……なんか言ったっけ……?」



 俺はウサミミを自分の体から引き剥がしながら思い返す。

 部屋が白く光った直前は確か……動物がここで飼えないみたいな注意をしてて……。


 ――とにかく、禁忌の魔法でもなんでも使って、こいつらを人間に……!

 そうだ、確かに俺はそういった。



「いや……でもまさか……」



「追放された後に魔力が覚醒する事例は少なくないし、覚醒時の魔力暴発で無意識に魔法を使うこともあるわ」



「そんな都合がいいことある訳ないっいてて……」



 話してる最中、さっきまで姉さんの膝にいた子が、飽きてしまったのか俺の傍にやってきて髪を引っ張り始めた。

 引き剥がしたウサミミの女の子も、髪を引っ張るのはやめたが、俺の背中にのしかかって体重をかけていた。

 どうも構ってほしいらしく、ついには「あそんで!」俺に声をかけてくるようになった。

 でも、今そんなことをしている場合じゃない。



「君たち……今大事な話……してるか……ら……後で……」



「いま――!」



 ダメだ、ついに我慢できなくなったウサミミが騒ぎ始めてしまった。

 しかも、側にいた一番小さい女の子も真似をしてしまい、騒ぎは予想より大きくなった。

 そんな様子を微笑ましく黙って見ている姉さん。



「モテるのね、一生懸命お世話した証拠ね」



「見てないで手伝ってくれよ!」



 ヘルプを要請したが、姉さんは一切ノータッチを貫くつもりらしい。

 そうしているうちに、ついには俺の腕を一番小さい子とウサミミが引っ張り合いを初めてしまった。



「ラビとあそぶのー!」



「ハーちゃんと!」



「痛いっての! 引っ張んな引っ張んな!」



 大事な話を中断して、腕がちぎれそうになっていたその時、救世主が現れた。

 それは姉さんではなく、犬耳の女の子だ。



「二人とも、今はご主人様の邪魔しちゃダメだよ」



 彼女は俺の両脇に居た二人を抱えると、そう注意をして俺にお辞儀をする。



「失礼しました、私が面倒見てますのでお話を続けてください」



 そうして、少し離れた場所に移動してくれた。

 犬耳の子に関しては、人間になったばっかなのに礼儀正しく感心した、一方姉さんには幻滅した。



「なんで助けてくれないんだよ」



「だって、修志に人気が集中してたからさ、邪魔しちゃ悪いかなって」



 本音は面倒臭かっただけなくせによく言う。

 まぁいい、そんなことを追求してる時間もないしな。



「それより、さっきの話の続きだけど、やっぱり魔法使ったの修志じゃない?」



「だから俺じゃないって、魔法を使った自覚もないし」



「魔法使ったことのないのに自覚も何もあるわけないじゃない、それに、魔力の暴発は覚醒時に度々見られるもの、覚醒時期以外ではあり得ないわ」



「じゃあなんだ、本当に……覚醒したってことか……俺が……?」



 姉さんの自信満々なその発言を聞いて、俺は自分の掌を見つめる。



「じゃあ俺、魔法界に帰れるってことか!?」



 確か、追放後でも覚醒した場合手続きを踏めば魔法界に帰れるんだったよな……。

 ここ数年、魔力が覚醒しないことで劣等生と言われてきたが、汚名返上のチャンスだ。

 しかも幸い追放から一年経ってない。

 今戻ることができれば、魔法界の授業のブランクが少ない、まだ追いつける。

 俺は自分の魔力が覚醒したことにはしゃぐ。

 しかし姉は浮かない表情で、声のトーンを落として言う。



「そう単純な話ではないのよ……今回は」



 俺は姉さんの言葉が引っかかり、動きをぴたりと止めた。

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