第2話 捨てられた魔法使い
俺たちがいた魔法界にはある決まりがある。
十五歳までに魔力が覚醒しなければ追放されるという決まりだ。
もちろん、追放後でも問題のない魔力覚醒をすれば、魔法界に戻ることはできるのだが、少なくとも今の俺は未だ魔力が覚醒していない。
だから魔力のない俺は、魔法界を追放されて人間界にいる…故に情けないことに、姉の嫌がらせにも反撃ができないでいた。
それを知ってて姉さんは、猫を飼いたいというだけの理由で、さめざめと泣いて俺の心を抉り精神的に訴えてきているのだ。
「修志も魔法界から捨てられた時の気持ちをもう一度思い出してみなさいよ!かわいそうだと思わないの? 震えて段ボールに縮こまってたのよ? この子は何も悪くないのに……」
それに、『かわいそう』とか言ってるけど、真っ当なことを言ってる人間に理不尽なこと言われてる俺は『かわいそう』じゃないのかよ。
「可愛いとか可哀想とか言って拾ってくるならな、世話や大谷さんの対応を一度くらいしてみろってんだ。……大家さんから近隣の苦情言われるの俺なんだぞ!?無責任に次から次へと動物拾ってくんな!」
俺がそう言った瞬間、今度は急に俺の体に重力が戻り、床に叩きつけられる。
手加減してくれていたらしく、骨は折れていないようだが、かなり痛い。
しばらくその場で痛みに耐えていると、逃げ出して離れた距離にいたウサギが元の場所に戻ってきて、心配してくれているのか俺の顔をぺろぺろと舐めた。
そんな俺の耳に姉さんの少し怒ったような声が聞こえてきた……。
「わかった、いいわよ。そこまで言うなら元の場所に返してくるわよ!その代わり、修志も一緒よ、この子たちとおんなじ場所に捨てるから」
「なんでそうなるんだよ! 思いやりがないのは姉さんの方じゃねーか!」
「動物は捨てても自分は捨てられたくないなんて虫が良すぎるわ、命は皆平等よ!」
そんなご立派な動物愛を熱弁する姉さんを見ながら、全身ズキズキする体に鞭打って、もう一度立ち上がりながら姉さんに言い返す。
「そこまで言うなら、バレないよう対策しろよ! ご自慢の魔法使で防音するとかさ!」
「そんなもんとっくにやってるわよ。壁が薄いから魔法だけじゃ抑えらんないのよ、これ以上強い魔法にすると、部屋の音なんの音も聞こえなくなるし」
「なら動物飼いたいならペット可の家探せよ、それなら別に文句言わないから」
「そう言うところ……大体家賃高いのよね……」
知らねーよ、 だったら動物諦めろよ。
腹が煮えくるほどにムカつく。
俺は頭を掻きむしる、動物を隠し誤魔化すことでだいぶストレスが溜まっていたのだろう、だからこんなことを言った。
「じゃあ、こいつら人間にすれば?魔法で。」
「いやーよ、なんで私が禁忌の魔法を使わないといけないのよ」
「わかってるけど、そうでもしないと、動物が飼えないって言ってんの! とにかく、禁忌の魔法でもなんでも使って、こいつらを人間に……!」
『してみろ』と本当は言うつもりだった。
でも、その言葉が発せられることは無くなった。
なぜならその瞬間、部屋の中がパァッと白く光り始めたからだ。
もう少し厳密に言おう、姉さんが抱えていた目の前の猫が光り出したのだ。
猫だけじゃない、俺の足元にいたうさぎ、部屋の奥にいた犬と、檻の中のハムスターも、家にいる動物四匹が一斉に白く光っている。
だから、部屋は一瞬目も開けられないくらいに明るくなった。
その数秒後、光がスウッと収まると、目の前には信じられない光景が俺の目に入る。
姉さんが抱えていたはずの猫はどこかにいなくなっていて、代わりにそこには六歳くらいの猫耳をつけた人間の女の子がいた。
それも服を着てない状態で。
あまりにも突然の出来事に、声も上げずにボーゼンとしていると、ズボンの裾がクイクイッと引っ張られる。
振り返ると、そこには四歳くらいのウサギの耳を生やした女の子がいて、やはり服を着てない状況で座り込んでいた。
そして……。
「ばぁっ!」
と大きな声で俺たちに声をかけた。
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