第1話 捨てられた動物達
「元の場所に返してきなさい」
俺は、猫を抱える姉さんの背後にある、玄関の扉を指差しながら冷たく言った。
「こんな可愛い猫ちゃんなのに? 見てこのつぶらな瞳、修志も嫌いじゃないでしょ?」
姉さんは必死になって抱えている猫を俺に向けて見せて訴える。
確かに、ジーッと見つめる赤い目を見たら、家に連れてきたくなる気持ちはわかる。
でも、ダメなものはダメだ。
「うちでは飼えないの! 今うちに何匹動物いるんだよ!」
「犬、兎、ハムスター、あんた、計4匹」
「俺はペットじゃねぇ!」
姉さんの最後の一言に憤慨する。
確かに、人間界で行き場のなかった俺を居候させてくれてることには感謝するが、だからって、実の血の繋がった弟をペットと同じ感覚で言わなくてもいいじゃないか。
「今更一匹増えたところで変わんないでしょ? よく懐いてるし……あ、ほら!」
姉さんに指を刺された場所を見ると、いつの間にかウサギがよってきていて、足元に額をすりすりと擦り付けていた。
「ラビちゃん、修志のこと大好きだってさ。奥で寝てるチワちゃんだって散歩に出る時はいつも大喜びじゃない。この猫ちゃんとだって仲良くなれるわよ」
「だから、うちのアパート、ペット禁止だろ!?」
ペットが飼えないと不平不満を言う姉さんに、ピシャリと言う。
確かに皆よく懐いてくれてるが、それは別の問題だ。
「『次近隣から苦情きたら追い出す』って大家さんに言われてんの。これ以上動物増えたら誤魔化せないって!!」
ペット禁止のこのアパートで物音や鳴き声が聞こえてこれば、苦情が来て当然なのだ。
「姉さん、ウサギを……ラビを拾ってきた時に『家に置くのは里親が見つかるまで』で『拾った責任を持って、姉さんが里親を見つける』って話だよ!」
「あれ?そうだったっけ?」
やっぱりコロッと忘れていたようだ。
「いい加減にしろよ!世話もしない、里親も探さない、もう一匹増やそうなんて……何考えてんだよ!!」
俺が姉さんにそう怒鳴ると、姉さんは顔を膨らませ不服そうな表情を浮かべる。
直後、俺の体はフワッと上昇し、空中に浮かんだ。
どうやら、癇に障った姉さんの仕業らしい。
俺の足元にいたウサギは驚いて逃げ出し、机の影から宙に浮く俺を見上げた。
空中で下に降りようとして、ジタバタと体を動かし、姉さんを睨む。
「何すんだよ、脅しのつもりか!?二十歳の大人が、大人気ないこと言ってんな! 『天才・久野義麻穂』が聞いて呆れる!」
「だから何よ、今はそのことは関係ないじゃない。悔しかったらジタバタしてるだけじゃなくて、やり返してみなさいよ」
その言葉に、俺は一瞬体の動きをピタリと止める。
今の状況から分かると思うが、俺たち姉弟は人間ではなく、魔法界生まれの魔法使いだ。
この人間界に魔法使いの俺たちが住んでるのには訳がある。
姉、久野木麻穂は研究員で、ある調査を人間界で行う必要があり、こっちに住んでいる。
でも、俺こと久野木修志が、ここにいる理由は違う、そんな立派な理由じゃない。
「俺が魔法使えないの知ってて、実の弟の心抉ってまで猫が飼いたいのかよ!」
そう、俺はには魔力がないのだ。
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