BLショートショート群『夜半過ぎまで』分冊版1月~4月 試し読み

※BLショートショート群『夜半過ぎまで』分冊版1月~4月の試し読みになります!


◎収録されている同人誌

→『夜半過ぎまで』/A5(コピー本)判/200円


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一月

 初夢は家を建てる夢だった。自分の背中に大きな翼が生えて、自由自在に丸太を運んで家を造ることができた。『家を建てる夢』の意味を調べたら、運気アップのサインらしい。嬉しい。

「あー、サイアク。もう無理」

 寝癖ですごいことになっている頭をかきながら、風間理玖がトイレから戻ってきた。新年早々酷い顔をしている。

「おはよう。嫌な夢でも見た?」

 俺が問うと、理玖はじわっと涙をにじませて口を開いた。

「職場でめちゃくちゃ叱られる夢だった。もう嫌だ。永遠に休みがいい」

 あはは、と笑ってココアを作ってやる。テーブルに座った理玖の前にマグカップを置くと、彼は涙目のまま口をつけた。

「初夢で嫌な夢を見たらどうすればいいか、調べてみよう」

 俺はスマートフォンを取り出して検索エンジンを開いた。

「ん?」

 【初夢】まで打ったところで、【いつ見る夢】とサジェストが続く。気になってタップした俺は、その検索結果を見て思わず笑ってしまった。

「理玖、安心しろ」

「なに」

「初夢って二日の夜に見る夢のことらしい」

 今日は一月一日だ。

 理玖は目をまん丸に見開いて俺を見た。

「今朝の夢じゃないってこと?」

「そう」

「なーんだ」

 よかった、と胸を撫で下ろす理玖に、「明けましておめでとう」と声をかける。

「そうじゃん。忘れてた」

「うん。今年もよろしく」

「そうね、今年も、これからも」

 末長くよろしく、と。

 唇に柔らかい感触が触れる。

「二〇二四年、初キスげっと」

「……お前、そういうところだぞ」

 なにが? といたずらっぽく瞳を細めて、理玖はキッチンに消えた。冷たい手のひらで火照った頬を冷やしながら、俺は理玖のかりんと細い背中を見送った。


(試し読みおわり)

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