第72話 水中決戦

 どうも二階堂だ。サメに殴り掛かったものの。奴は水中に潜ってしまった。

 勘の良い奴だ。私のパンチを喰らうのは得策では無いと踏んだようだ。

 ここまで大きくなって、尚且つ人間に仕留められていないのだから、余程狡猾で頭が良いと思われる。

 魔法少女の姿に変身して戦うなんて野暮なことはしない。ここは水着という布切れのみで行かせてもらう。私はス―――ッと息を吸い込んで海の中に潜って行った。

 海の中の暗闇の中、奴の二つの目だけがギラリと光っている。獲物を狙う捕食者の目だ。どうやら多少危険と見られても、奴にとっては私は餌でしか無いらしい。

 フッ、上等だ。生死のやり取りをしたいというなら望むところである。

 サメは水中を物凄いスピードで進んで行き私に近づいて来る。そうして口を開いてすれ違い際に私のことを食べるつもりなのだろうが、そんな単調な攻撃は私に効くわけもない。当たる直前にヒラリと身を翻してサメの攻撃を躱し、そのまま攻撃に転じようとした。しかし、その刹那、私の体に衝撃走る。


“バチーン‼”


 サメの尾びれが私の体を叩いたのである。あまりの衝撃に私の体がぐわんぐわん揺れて、軽い脳震盪まで起こしてしまった。このサメめ、ワザと隙だらけの攻撃を仕掛けて、私の注意を引いてから尾びれで叩く作戦だったか。侮っていたわけでは無いが、ここまでの手練れとは、これは私も命を懸ける価値があるというものだ。

 サメがこちらを見てニタリと笑っている様な気がする。よし、決めた。今日の晩御飯はフカヒレだ。

 食うか食われるかここ一番の対決が今始まった。




「なんなんこれ?」


 霧子だ。砂浜に雁首揃えて、スク水姿の魔法少女の四人が体育座りしている。

 なんなんこれ?とも言いたくなるだろ。なんでイカれた格闘女とサメと戦いが終わるのをこんな所で待ってないといけないんだよ。考えたらアホらしくなってきた。帰るか。


「アタシ帰るわ。アンタらは好きにすると良いよ」


「ちょ、霧子ちゃん。二階堂さんが戦ってるんだから待とうよ」


「あのさぁ、みどり。こんな不毛な時間に私の夏休み使いたくないワケ。これなら家に帰って夏休みの課題してた方がマシだわ」


「嘘だ。霧子ちゃんが夏休みの課題なんてやるわけないじゃん。どうせ私の課題を丸写しする癖に」


 むっ、これは痛いところを突かれた。確かに私が課題なんてするわけ無い。

 それなら開き直って家でダラダラする為に帰るか。そう考えた時、空からバカデカい物体が飛来した。あまりに突然すぎるが、こんなの魔法少女をやっていればしょっちゅうだ。


“ド―――――ン‼”


 砂を巻き上げて現れた巨影の正体は、白いボディにウネウネとした触手を備えた大きなイカの化け物だった。ザッとさっきのサメの三倍ぐらいの大きさはあるだろうか?いや並べてみないとよく分からないんだけどね。

 それにしても眼前に海があるというのに空からイカの化け物が降って来るとはシュールな光景だな。


「俺の名前はイカゴッド。魔法少女達よ。貴様たちも年貢の納め時だ」


 イカが喋った。ということはコイツは魔物だな。年貢なんて納めてたまるか、こっちとら中学生で小遣い少ないんだよ。


「うひょ―――♪ついに触手系の敵が来たぞ♪魔法少女達が触手に絡めとられて……ぐひひ♪」


 チャガマの奴が邪なことを考えて下卑た笑顔を見せたので、とりあえずアタシはチャガマの頭を踏みつけた。


「師匠の戦いの邪魔はさせるわけにはいかない‼みんな変身して戦おう‼」


 火種の奴がそう言うけど、どうせコイツが一人で美味しいところを持ってくんだ。やる気出ねぇ。しかも戦う理由が師匠の戦いの邪魔をさせない為とか、今までそんな理由で戦う魔法少女いたことあるのかよ?いや無いだろ。


「ほら霧子ちゃん、観念して戦おうよ」


「はいはい、分かったよみどり。やりゃ良いんだろ?……はぁー、変身」


 気が乗らないままに変身して戦うことになった。修行の成果を見せてやるとか絶対に言わないからな。

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