第71話 ジョーズは突然に

 チャガマだ。

 色々考えたんだが、やはり起こったことをありのまま話す方が良いと考えた。

 二階堂の奴をトレーナーとして焚きつける為に、俺は人食いサメが居るなんて嘘をついた。そう嘘をついたんだ。アイツは腕っぷしの方は化け物級だが、頭の出来はイマイチだからな。すぐに騙されると思ったぜ。

 しかし、人食いザメが出ると言った時のアイツの目の輝きは恐ろしいものがあった。やはりこの女はニチアサの魔法少女枠には向かいない。

 


 海に来て奴の指導っぷりを見ていたのだが、頬を赤く染めて何処か落ち着かない様子。まるで校門前で憧れの先輩が来るのを待っているといった感じだが、どうせ奴が待っているのはサメなのだ。人食いザメを待つのに、あんな顔が出来ることに俺は恐怖した。

 人食いザメは出る筈がない。あれは俺が考えた嘘。俺の魔法で海水浴場には人払いの魔法をかけたから他の客は居ないのだ。決して人食いザメが出るから客が来ないわけではない。よっていくら二階堂が待ち焦がれても人食いザメなんて来ない。残念だったな戦闘狂よ。


「し、師匠、なんでそんなに頬を赤らめてるんですか?」


「うるさい、お前は黙ってバタ足してろ」


 サメを待っているせいか、自分の弟子にすら普段の1.2倍の塩対応。まぁ、火種はMっ気もあるし、ストーカー気質だし、ヤンデレ要素もあるし……何でこんな奴が現役の魔法少女なのだろう?全ては二階堂のせいだ。あの女が全てを変えてしまった。キャッキャッウフフの魔法少女ストーリーを俺は思い描いていたというのに、全くもって台無しである。

 さて海に入って、そろそろ一時間が経とうしている。俺は海の家でクリームソーダを飲みながら、苦悶の表情を浮かべる魔法少女達の修行を観察しているが、そろそろ飽きてきた。帰って晩酌でもしながらサブスクで映画を見たい。

 そんな矢先、事件は起きた。

 海の遠くの方で何か黒い物が浮いているのを発見した俺は、首にかけていた双眼鏡でそれを見た。すると海を裂くように魚の背びれの様な物が魔法少女達の方に向かっているのが見えたのである。魚の背びれといってもかなり大きい……というかアレって……。


 「サメだ―――――‼皆逃げろー―――――‼」


 嘘から出た実という言葉があるが、俺は驚いて少しちびった。本当にサメが出て来るなんて思わなかったんだ。

 俺の叫びに呼応して魔法少女達も一斉に背びれを見たが、見た瞬間に二階堂と火種以外の女共は慌てふためいた。特に浮き輪でプカプカ浮いていた流子の驚き様といったらなかった。


「ぎゃああああああああああああ‼助けてぇええええええええええええええええ‼」


 浮き輪の上でバシャバシャと暴れる流子。完全にパニックになっている様で、普段冷静な奴が、ここまで取り乱すのはギャップ萌えである。


「落ち着けお前達‼」


 ビシッと言い放つ二階堂。流石は死線をいくつも乗り越えてきた元魔法少女。肝の座り方が違う。


「全員重りを捨てて、流子君を全員で押して迅速に岸まで辿り着くんだ。分かったな?二度は言わんぞ」


「はぁ?アンタはどうするんだよ?」


 霧子の鋭い指摘に二階堂は二ッと笑った。


「私はお楽しみタイムだ♪」


 グッと親指を立てて、ニッコリ笑顔の二階堂。そうして奴は変身もせずにバタフライで背びれの方に向かって行く。

 いやいや、話が出来過ぎている。あの背びれに見える物はきっと別の何かだ。人食いサメなんて都合よく出てたまるか。サメなんて居ない、サメなんて嘘さ。

 

”ザパ―――――――ン‼”


 ……しかし予想に反して、人食いザメは波しぶきをあげながら大きな口を開けて現れた。大きな口は本当に人間を二、三人丸飲みできそうで、ギザギザの歯は何でも嚙み砕きそうである。つぶらな瞳がチャームポイントだが、恐怖の塊の様な奴に少しのチャームポイントがあったところで、可愛いと思えるわけも無かった。


「あばばばばば、あばばばばば」


 流子は完全に気を失っていて、白目を向いて口から泡まで吹いている。完全にニチアサではあってはならない光景だが、他の魔法少女達が二階堂に言われた通りに浮き輪を押しながら岸を目指す。

 二階堂は人食いザメに向かって、水中からトビウオの様に飛び上がり、猛然と立ち向かおうとしていた。

 もうこうなって来ると魔法少女要素なんて一切ない、B級のサメ映画って感じだが、出来ればサメに足なんか付いてない方向でお願いします。

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