第70話 師匠がデレる時

 どうも雫 流子です。

 今日は特訓という名目で海に来たんですが、最悪の気分です。

 なぜなら私は泳げないから、カナヅチなんですよ。根っからの。

 水の魔法使いなのにカナヅチなのは自分でもコンプレックスです。黒井さんにも散々バカにされましたし、今日という日が来なければ良いと考えたものです。


「そうか君は泳げないのか、なら浮き輪を使って、ひたすらバタ足してるんだ」


 と二階堂さんから言われた時、私はホッとするのと同時に軽い自己嫌悪を感じました。別に特訓に参加したいわけではありませんが、自分だけこういう風に特別扱いされるのが嫌だったのです。

 しかし、特訓の風景を見て私の考えは変わりました。特別扱いバンザイです。


「良いか、お前達には今から手首足首に総重量十キロの重りを付けて、沖に出てひたすらバタ足で浮いてもらう。サボっても良いぞ、サボったら沈むだけだからな」


 悪魔というより大魔神的な容赦ない言葉に愕然とする私以外の三人。唯一日ノ本さんだけは「やってやります♪」と乗り気なのは怖いです。

 それにしても一つ気にかかるのですが、二階堂さんが最初から乗り気だったのが気になります。普段なら私達に稽古をつける前は嫌そうな顔の一つでもするんですが、今回に限り最初からノリノリなのです。

 これは私は何か裏があると読んでます。



~一週間前~


「に、二階堂さん、謎のタヌキのマスコットみたいな人が二階堂さんを呼んでます」


 二階堂だ。ファミレスでバイト中に田所さんからそう言われた時、私は心底嫌な気分になった。

 タヌキのマスコットといえば奴しかいまい。まぁ、もうマスコットというより害獣といった方が私としてはしっくりくるのだが、田所さんは初見だからマスコットと思うのも無理はない。

 私がここで渋ると店に迷惑が掛かるので、嫌々ながらタヌキのマスコットのテーブルに向かうことにした。


「よぉ、仕事ご苦労さん」


 そう言いながらテーブルの上に立っているチャガマがメロンクリームソーダを美味しそうに食べている。

 相変わらず心底ムカつく野郎である。


「ボコボコにして皮を剥ぐぞ、この害獣」


「……いきなり怖いわ。ちょっとは客扱いしてくれよ」


 クソダヌキを客として認識するのは未来永劫無理として、このクソダヌキ何しに来たんだ?まさか、また私を都合のいい援軍として呼ぶ気だろうか?


「要件を言え、返答次第によってはタヌキ鍋だ」


「だから怖いって……今回は魔法少女達が海に行くから、その引率を頼みたいんだ」


「味噌をベースにするか、そっちの方が旨そうだ」


「怖い怖い、本当にタヌキ鍋にしようとしないで、まぁ、聞けよ。お前にもメリットが無いわけじゃない」


 何を言い出すこのタヌキ。私の時間を使って子供達も面倒を見るなんて、デメリットしかないじゃないか。時給が発生したとしても私は行かないぞ。


「近くの水沢海水浴場って知ってるだろ?」


 水沢海水浴場といえば、夏になれば海水浴客で賑わう、この辺の観光名所だ。まぁ、海に行くとなればそこに行くだろうと大体の予想は付いていた。


「知ってる、そこに魔法少女達が行くんだろ、私は行かないが」


「話は最後まで聞けよ。今その水沢海水浴場に巨大なサメが出るんだ。そりゃ映画とかに出てきそうな大きなサメらしいぜ。市も対処に困ってるらしい。どうだ戦ってみたいだろ?」


 人を戦闘狂みたいに言いやがって、大きなサメだって?


「それは人を丸飲みするぐらい大きなサメなのか?」


「あぁ、もう三人ぐらい余裕でパクリといっちゃうらしいぜ」


 三人ぐらい余裕か……かなりの大きさだな。サメはクマより強いんだろうか?まぁ、戦うとすれば海で戦うんだから、私にはハンデが付く、その点を考えれば中々良い戦いが出来そうだ。

 それを踏まえたうえで私はチャガマにこう返答した。


「け、稽古に付き合ってやっても良いんだからね」


「この世で一番需要の無いツンデレだな」


 こうして私は魔法少女達の引率者になる事に相成った。

 待ってろサメ♪カマボコにしてやるからな♪





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