夏の大乱闘編
第68話 Nさんの話
私の名前は田所 杏美。43歳のファミレス店員である。
私のことをお局だとバカにする奴らは多いが、今日も今日とてファミレスの給仕として汗水流して戦うわ。
「田所さん、田所さん」
お昼の休憩中、私が休憩室の椅子に腰かけて目を閉じていると、ウチで最も若い宮城さんが話し掛けて来た。正直若い人と話すのは苦手なのだが、この間は合コンに誘ってくれたし話さないわけにはいかない。
「何かしら?宮城さん」
「二階堂さんって何者なんですかね?」
二階堂 明。彼女の名前をこの店で知らない者は居ない。四年ほど前にここにやって来て、それからウエイトレスとして働いている私の同僚である。
確かに彼女には謎の部分も多い、突然に長期休暇に入ったり、中学生の弟子と名乗る少女が会いに来たりするのだ。接客は不愛想で評判はあまり良くないが、彼女は武術を習得しているので揉め事などが起こった時に大変頼りになる。
「二階堂さんねぇ……私も良く知らないのよね。あの人たいがい無言だし」
「ですよね。でもこの間の合コンだって、腕相撲で戦ってもいないのに相手の男の人戦意喪失しちゃうし、もしかしてヤバイ人なんじゃないですかね?」
いけないわね。このままではファミレス内で二階堂さんのあらぬ噂が広がることになってしまいかねない。ファミレスの仕事というのはチームワークが大事なの、ゆえに不協和音の根はここで断ち切っておくべきね。
「二階堂さんは良い人よ。この間も町中でたまたま見掛けたんだけど、子供が木の枝に風船を引っかけて泣いていたら、それを取ってあげていたわ。だからあんまり悪く言わない方が良いわよ」
これは本当にあったことで今のところ真実しか言っていないわ。本当に優しいのよ二階堂さんは。
「その風船はどうやって取ってあげたんですか?まさか木を登って?」
「……えぇ、まぁそうよ」
「アグレッシブ過ぎるでしょ。普通女の人が木登りなんてしないですよ。ジムでメチャクチャなトレーニングしてるって噂もあるし、本当に何者なんですかねぇ」
フォローしたつもりが逆に作用してしまった様ね。でもこれでも普通にあり得たことの様に私が脚色をしたのよ。
だって彼女は本当は木になんか登らなかった。
二階堂さんはタンッと軽く跳躍しただけで木の上の方までジャンプし、そのまま風船をキャッチしたのだから。もうドラゴ〇ボールの世界よね。
これで宮城さんの中の二階堂さんの評価は下がったように思えたのだけど、実はそうではなかったらしい。
「でもあの人面白いから、また合コンに誘ってみます♪」
……最近の若い子は分からないわね。面白いの基準が分からないわ。これもジェネレーションギャップってヤツかしら?
「田所さんも行きますか?」
「行きたいっ‼」
「あっ……はい、それじゃあまた三人で行きましょうね」
やったわ♪また合コンに誘われちゃった♪今度こそ私は高収入でイケメンの20代前半の子をゲットするわ♪
そこから私はウキウキしながら仕事に励みましたとさ。
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