第65話 帰って来たぞ魔法少女

 雫 流子です。

 学校への登校中、朝から気が重いのは彩夏ちゃんがエレクトロンという人に攫われてしまったからです。親御さんにも攫われたことを言わないといけないと思ったのですが、チャガマさんが「大丈夫だって、エレクトロンはキャトった人間を悪いようにはしないって」とか言って、しきりに大丈夫だとアピールしてきたので、親御さんには何も連絡しませんでした。

 ですが、これはれっきとしたな誘拐なので、ちゃんと伝えておいた方が良いに決まっています。相手が宇宙人なら尚更です。身代金に何を要求して来るか分かりません。もしかして地球を寄こせ‼とか言ってくるかもしれませんし、交渉にも応じてくれるか分からりませんよね。

 これは対策を立てないといけないのでは無いでしょうか?


「おはよー♪流子ちゃん♪」


「あっ、おはようございます。彩夏ちゃん」


「どしたの?そんなに朝から暗い顔して?」


「そりゃ暗い顔にもなりますよ。彩夏ちゃんが昨日誘拐されたんですから」


 この時、私はおかしいことに気が付かずに、そのまま約200メートル彩夏ちゃんと歩きました。しかし私もバカではありません。すぐに異常に気が付いて、彩夏ちゃんに喋りかけました。


「どうしてここに居るんですか?昨日キャトられましたよね?」


「えっ?何の事?」


 何も分からないといった感じに首をかしげる彩夏ちゃん。いやいやキャトられましたやん。


「いや昨日、彩夏ちゃんはエレクトロンさんに誘拐されたでしょ?覚えて無いんですか?」


「えっ?何の事?」


 オウムか。同じことを繰り返すなんてオウムか。

 もしかして幻覚を見せられていたのでしょうか?いやでも現場にいた二階堂さんも何も言わなかったし、それは無いんじゃないでしょうか。あの人なら幻覚程度は野生の感で見抜きそうですし。

 やっぱりあれは完全にキャトられていたと見て間違いないと思います。


「彩夏ちゃん、はぐらかさないで下さい。あなたは確かに光と共に宇宙船に連れて行かれたんですよ。さぁ、あれからどうなったか教えて下さい」


 私がそう問い詰めると、彩夏ちゃんの目が死んだ魚みたないな虚ろな目になり、口をパクパクとさせ始めました。


「ナンノコト?サイカワカラナイ、ワカラナイ……」


 壊れた人形みたいに「ワカラナイ」と連呼する彩夏ちゃん。これは完全にやられてますね。脳を弄られたんじゃないでしょうか?どうしましょう?友達が宇宙人にやられた時の対処法はどうすれば良いんでしょう?

 何もひらめかなかった私は、仕方ないと諦めることにしました。


「昨日の教育番組見ました?」


「えっ?何それ面白く無さそう」


 見て見ぬフリをするこれが私の出した最適解。お前それは無いだろうと非難する人が居るかもしれませんが、他の魔法少女三人も同じ行動を取ったので私だけが悪者ということは無いでしょう。

 これは私達の中で、令和のXファイルとして言われるようになりました。

 皆さんも友達がキャトられて帰って来て、様子がおかしいな?って思った時は寛大な心で見て見ぬフリをしましょう。それがお互いにとって為になるということです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る