第63話 終わりは突然に

 火種です。師匠 対 エレクトロンさんの戦いも佳境に入ってきたように思えます。


「ムムムッ、もうちんたらやってても埒が明かないデース」


 頭を擦り目から涙を流しながら、エレクトロンさんがそんなことを言います。メチャクチャ恐ろしいほど強くて、本当に悔しかったけど、あーゆう茶目っ気がある部分を見ると憎めませんね。


「次の一撃で決めるということか?」


「その通りデース。脳筋はこの手の話が早くて助かりマース」


「むっ、別に脳筋ではないけどな」


 脳筋と言われて頬を膨らませている師匠が可愛いです♪


「いや、どう見ても脳筋だろう」


 チャガマさんが余計なことを言ったので、私の足が滑ってチャガマさんをムギュッと踏んづけてしまったのは言うまでもありません。

 さて試合観戦に戻ります。


「サンダーモニュメントフルドライブ‼出力最大‼」


 エレクトロンさんの一声で設置された雷型の物体が光始め、そして雷型の物体からエレクトロンさんに電流が送られて行きます。


「これぞ宇宙科学と魔法の至高のケミストリー‼雷神の一撃を喰らうデス‼」


 エレクトロンさんは激しく光り輝き始め、どうやら必殺の一撃を見舞おうとしている様です。し、師匠、流石にこれは避けた方が良くないですか?


「来い来い。耐えきった上でカウンターでパンチを喰らわせてやる」


 トゥンク……いやいや、師匠のキリっとした横顔にときめいている場合じゃない。流石に危ないですよ師匠。

 しかし、私が止める前にエレクトロンさんは最大級の一撃を今まさに放とうとしていました。


「喰らうがいいデス。トール・ファイナル……」


“ピピピッピピピッ”


 とココで戦いには似合わない気の抜けたアラーム音が鳴り始めました。全く一体誰がこんな音を鳴らしているのでしょう。


「あっ、ちょっとたんまデース」


 って、エレクトロンさんかーい。

 エレクトロンさんは右手に付いた機械のアラームを止め始めましたが、すっかり身に纏っていた電流は無くなってしまっています。まさか、もう一度最初からやるつもりでしょうか?

 けれど彼女は私達の斜め上を行くことを言い出しました。


「あの、三時のおやつの時間なので今日は帰りマース。お騒がせしまシタ」


 そう言ってペコリとお辞儀を一つしたのです。えっ?終わりなの?


「お前、まだそんな子供じみた習慣をしてるのか?」


「カッコ良くルーティンと言って欲しいのデス。おやつの時間の前に侵略したかったのに、アナタが粘るからいけないのデース」


「そんな軽い気持ちで、この星が侵略できると思うなよ」


「はい大丈夫デース♪次は朝の六時から侵略を開始するから余裕デース♪」


 早朝から侵略に来るのは勘弁してほしいなぁ。朝は弱いのです。


「今日のところは帰りマスが、私も手ブラでは帰りまセ―ン♪」


 そう言ってエレクトロンさんが姿を消し、何処だ何処だと私が探していると、なんと彩夏ちゃんを囲っている檻の近くに来ていました。


「あっ、彩夏を檻から出してくれるの?」


 期待に満ちた目でエレクトロンさんを見る彩夏ちゃんですが、エレクトロンさんは満面の笑みで彩夏ちゃんにこう告げました。


「いいえ違いマース。宇宙船でおやつを食べるのデース♪」


「えっ?」


 目が点になる彩夏ちゃん。しかし、そんな彼女なんてお構いなしに、空からスポットライトみたいな光が降って来て、彩夏ちゃんを檻ごと宙に浮かせてしまいました。


「うわあああああああああ‼何コレーーーーーー⁉」


「さ、彩夏ちゃんがキャトられてるーーーーーーー‼」


 思わず大声を上げてしまう私。人がキャトルミューティレーションされるところを初めて見ました。


「フフフッ、可愛い子とオヤツとお茶を飲ム。これ以上の贅沢はありまセン」


 エレクトロンさんも空に浮き始め、ばら撒かれた雷型の物体も浮き始めました。


「彩夏ちゃんを気に入ったのか?」


「エェ、全くもってその通りデース。私達は今から姉妹になるのデース♪」


 えぇ姉妹って、もしかして、あなたタイが曲がっていてよ?的な‼


「そうか、手荒な真似をするなよ。」


「ハーイ♪それではごきげんヨウ♪」


「あぁ、次こそぶちのめす。」


 師匠とそんなやり取りをすると、エレクトロンさんと彩夏ちゃんと雷の物体たちは宙に消えていきましたとさ。めでたしめでたし♪

 ……いや違う‼彩夏ちゃんがさらわれてるし‼


「師匠‼彩夏ちゃんさらわれちゃったじゃないですか‼」


「慌てるなバカ弟子。時としてさらわれることも良い経験だ……それよりお前、何で鼻血を流している?」


「えっ、いやこれは……えへへ♪」


 師匠と姉妹になったことを妄想し、興奮して鼻血を流したなんて言えません。適当に笑って誤魔化します。

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