第61話 とある女囚へのインタビュー

 私の名前はケインズ。魔法新聞社に勤める中年記者である。

 今日はマジックプリズンに幽閉されているという、とある女囚にインタビューにやって来た。

 

「十分だけでお願いします」


「分かりました」


 いつも通り看守の監視の元、殺風景な部屋で透明な板を挟んで女囚と面会するわけだが、私はかなり緊張していた。その女は珍しい地上人の女囚であり、私も地上人と会うのは初めてあったから、胸の高鳴りを抑えられない。

 なんでも地上人というのは、乱暴で原始的で好戦的な野蛮な奴らだと聞く、その中でも魔法警察に捕まった程の女囚である。きっと手が付けられない暴れん坊なのだろう。多分メスゴリラの様な女と考えて間違いないだろう。


「入れ」


 透明の板の向こうから別の看守の声がすると扉が開き、扉の中から出てきたのは私の予想だにしない人物であった。

 黒い長い髪をたなびかせ、モデルの様なスラッとした足、小さくもなく大きくも無い丁度良い大きさの胸、彼女の澄んだ瞳を見ていると何だか吸い込まれそうな気がしてくる。メスゴリラなんてとんでも無い、彼女はとびっきりの美人さんであった。彼女は白と黒のボーダーの囚人服すら見事に着こなしてしまっている。


「あの?どうしました?ボーっとして」


 気が付くと彼女は私の前に座っており、放心状態の私に声を掛けて来た。いかんいかん、今から彼女にインタビューするというのに、最初からこんなことでは駄目だ。


「オホン、すいません。何しろ地上人と会うのは初めてでして、恥ずかしながら気が動転してしまいました。私は記者のケインズです」


「初めまして、私は大神 氷柱です」


 オオガミ ツララ。ハッキリ言って変な名前だが、地上人は国が違えば文化も違う、これも多様的な文化が生んだ名前なのだろう。

 さて十分しかない、さっさとインタビューを開始しなくては。いくら相手が綺麗といっても女囚である、私は早速本題から入ることにした。


「大神さん、何故あなたは魔法少女として平和の使徒として戦った身でありながら、魔物と協力して悪事を働いたのですか?」


「そうですね。お金が欲しかったからです。ただ単純にそれだけです。お金は私を裏切りませんから」


 何の躊躇いも淀みも無く、彼女はそうハッキリと言った。透明な板越しでも彼女の異質な迫力が伝わって来て、私はゴクリと生唾を飲み込んだ。


「そ、そうですか。では今度は仲間だった魔法少女のことについて教えてもらえますか?」


「……何故です?」


 少し目が鋭くなるツララさん。何だかあまり話したく無さそうである。だが相手の話したくないことも話させるのが記者の勤め。こんなことで、たじろいでばかりもいられない。


「いえ、実は今、偶然なんですが、あなたのお仲間達が地上で騒ぎを起こしているらしく、二人で激しく戦っているんですよ」


「……ふむ、今のを聞いて大体察しは付きました。エレクトロンが地球侵略しに来たので、それを二階堂が止めに入った。そんな所でしょう」


 す、凄い。こんなに正確に言い当てられるなんて、流石は精霊すら使役する程の魔力とスキルの持ち主である。


「いやはや、凄いですな。こんなにも的確に言い当てるとは」


「二人は別れる際にそんな約束をしていましたから。しかし、エレクトロンが来るとなると、今の魔法少女達では手も足も出ませんね。二階堂がやられたら面白くなりそうです。フフフッ♪」


 そう言いながら薄く微笑するツララさん。本当に心の底からそうなると面白いと思っている様である。少し質問を変えよう。


「アナタ達、同期の魔法少女の中で一番強いのは誰ですか?」


「……難しい質問ですね。」


 おっ、てっきり自分だと即答するかと思ったら、意外な返答である。


「難しいですか?」


「三人とも毛色が違い過ぎるんですよ。私は魔法で戦うスタンダートタイプ、二階堂は魔法格闘、エレクトロンは宇宙科学と魔法の応用。私は二階堂にこの間負けましたが、激情して我を忘れてしまっていましたし、エレメントドライブで戦ったら結果は変わっていたかもしれませんし」


「二階堂さんという人は魔力がほとんどないそうですが、それなのにそんなに強いんですか?」


 一般的に魔力の大きさが強さに直結するのが常識であり、ツララさん程の魔力の持ち主が、魔力の小さな人物に負けるとは私には信じれなかった。


「チッチッチ、分かってませんね記者さん」


「何がです?」


 この後、ツララさんが得意気にこう言ってみせた。


「あの女には常識が通じないんです。ゆえに強い」



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