侵略者は魔法少女編

第50話 守護

「ど、どうしよう。ママとはぐれちゃった」


 チャガマだ。やれやれ、魔物が居るから来てみたが、面倒なのを見つけちまった。

 母親とはぐれたらしき、倒壊した瓦礫の中を一人歩く、オーバーオールを着た3歳ぐらいの少女。あーいう手合いは一番面倒だ。

 でも俺って世話好きな魔法タヌキだから助けてやりたくなってしまうんだよな。


「どうしたお嬢ちゃん」


「うわああああああん‼喋った――――――‼化けダヌキ――――‼」


 俺に失礼なことを言いながら泣き始める少女、化けダヌキとは失礼な言い方だが、長い間年頃の少女達の相手をして来たこの俺である。ある程度の罵声なら我慢することが出来るのだ。


「化けダヌキじゃないから、良いタヌキだから。安心してくれよ。てか泣くな」


「ひっく、ひっく……本当?」


「あぁ、本当だよ。それに化けダヌキにしてはプリティ過ぎるだろ?」


「えへへ♪マヌケそう」


 このガキ、人が下手に出てりゃ良い気になりやがって。いや我慢、我慢、ここで怒ったら負けだぞチャガマ。相手は年端も行かない子供じゃないか、ここは大人の対応をだな……。


 と、そんなことを考えていると、空から何かが俺達の目の前に降って来た。


“ドシ――――――――ン‼”


 それは黒くて大きい球体であり、その禍々しいオーラから見て魔物であることは間違いなかった。


「お、おい、早くこの場から逃げるぞ‼」


 俺がそう促したのだが、少女は尻もちを突いて泣いており、小便まで漏らしている始末であった。


「え―――――――ん‼怖いよ――――――‼」


「だぁああああああああ‼もう最悪‼」


 思わず俺も声を出してしまう。これだからガキは嫌いなんだ。逃げないと死んじまうんだぞ?

 もたもたしていたので、案の定黒い球体に変化があり、アメンボの様な足が左右合わせて六つ生えてきた後、その足で自立して立ち、最後に球体に黄色い大きな目が出現した。

 なんともグロテスクな見た目の魔物である。喋ることは出来なさそうだが、この手のタイプの魔物は、上から言われたことをプログラムとして忠実に実行しようとするので質が悪い。要するに話し合う余地すらないのだ。


「怖い―――――――――‼」


「怖いなら逃げてくれ‼」


 年端もいかないガキにそんなことを言っても無茶ぶりかもしれないが、逃げないと俺も困るんだよな。

 状況はドンドン悪くなっていくばかりで、魔物の目の部分が光り出し、キュウイイイイイイン‼という喧しい音も聞こえ始めた。俺の経験則から言わせて貰うと、これはレーザーを発射する気だな。俺ぐらいの魔法タヌキになるとこれぐらい見抜くの朝飯前なのさ。

 ……まぁ、分かったところで何も出来んが。

 魔物の目が燦然と輝き、いよいよレーザーが発射されるという時、俺は少女を庇う為に彼女の前に飛び出した。こんな小さな体でレーザーを防げるわけも無いが、少しぐらい格好付けないと、魔法使いの相棒として恥ずかしいからな。

 さぁ、来い‼

 しかし、俺の前にも何者かが颯爽と現れた。その背中には見覚え……というか毎日見ている、赤いドレスの様なコスチュームを着たおんなである。


“ビィイイイイイイィイイイイイイイイ‼”


 とうとう照射される青白い光のレーザー、しかし現れた女はそれを両手で受け止めた。

 普通の一般人がそんなことすれば即死だろうが、目の前の魔法少女こと日ノ本 火種は見事レーザーを両手で弾き続けている。


「くっ‼すんごく熱いけど我慢する‼」


 だろうなー。俺だったらそんな無茶しないもの。そんなことするのはコイツか、コイツの師匠ぐらいのもんである。


「お嬢ちゃん、大丈夫だからね。怖いのはお姉ちゃんが倒してあげるから」


 後ろを振り向いて笑顔を見せる火種。えらい余裕があるじゃん。

 レーザーの照射が終わり、その瞬間に火種は目玉野郎に向かって飛び出していた。    照射が終わり、その瞬間に火種は目玉野郎に向かって飛び出して行く。 


「目玉なんて、指先一つでダウンだよ‼二階堂流活人拳‼一点突破‼」


“ズドン‼”


 有言実行、右手の人差し指で目玉野郎を貫いた。そしてその後、目玉野郎はバァァアアアアン‼と音を立てて爆散し、これにて一件落着と相成った。


「大丈夫だった?」


 戦いの後、腰が抜けて立てない少女に手を差し伸べる火種。少女はその手を取りながらニッコリと笑顔になっていた。


「うん♪私お姉ちゃんみたいに強くなりたいな♪」


「あはは、私なんてまだまだだよ」


 微笑ましい。実に微笑ましい光景ではある。

 それは良いのだが、いささか火種が逞しくなり過ぎでは無いだろうか?

 悪落ちから復帰したら心身ともに成長して、あどけなさとか可愛らしさとかが無くなってきている気がする。それは魔法少女としてどうなんだ?……やめやめ、俺の考える事じゃない。さて勝利の美酒に洒落込むとするかな♪




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