第49話 師弟の絆
どうも雫 流子です。
今日は参観日で、教室で日ノ本さんが浮かない顔をしています。
日ノ本さんのお父さんお母さんが来ないことが原因でしょうね。
私なんかパパ……いえお父さんが来て写真を撮りだしたりするのが恥ずかしくて、来る方が嫌なタイプの人間ですが、日ノ本さんは親に来てもらいたいタイプの人の様です。
世界の平和を守っても誰も褒めてくれませんが、せめて親には自分の子供に関心を持って欲しいところだと、日ノ本さんを見ていると胸が少し締め付けられます。
さて、授業が始まる前に親が教室に入って来ます。後ろに陣取られて背後から視線を感じるというのは、やはりあまり良い気分がしませんね。
「流子————‼コッチに目線をくれェ‼」
はい、無視。あんな大勢いる中、デカい声で話し掛けてくるな。サイコパスかよ。やっぱり親は来ないに限ります。
と、ここで不思議なことが起きました。高身長のスラっとした見覚えのある人物が黒いスーツ姿で教室に入って来たのです。
あまりのことに常に冷静な私にも衝撃が走りました。
「し、師匠‼」
日ノ本さんも気づいた様で、ガタッと立ち上がり、後ろにいる人物の方を見ています。
はい、そうです。スーツ姿の人物の正体は二階堂 明さんで、師匠が弟子の参観日に来てしまったのです。
~昨日の二階堂の自宅~
二階堂だ。
畳の上で胡坐を組み、湯飲みに入った茶を飲みながら、私は火種が落した紙とにらめっこしていた。
紙には大きく〈参観日〉と書かれており、火種の浮かない顔の理由が分かってしまった。アイツは両親と上手くいっていないので、参観日に両親は二人共来ないのであろう。それでも来て欲しいから、ファミレスで参観日の紙を見ていたのだろうが、だからといって私に出来ることは無い。師匠と弟子とはいえ赤の他人なのである、これ以上踏み込んだ関係になるのは、ノーサンキューである。
「あら、行ってあげればいいじゃない」
「うぉ‼」
私が背後を取られるとは只者じゃないと思ったら、隣に住んでる沙羅さんだった。
沙羅さんは今日も金髪ワンレンの髪をなびかせながら、上はヨレヨレの白いシャツに、下は黒いパンティ姿だった。酒臭いし、焼酎の一升瓶を抱えているので、酔っぱらっていることが予想される。
「ど、どうやって入ってきたんですか?」
「だって鍵開いてたもーん♪一緒に晩酌しましょうよ♪」
「私は下戸だから飲まないって言ってるでしょ」
「つれないなぁ。どっこいしょ♪」
私の部屋に座り込む沙羅さん。どうやらここで晩酌を始めるらしく、瓶のまま焼酎をグビグビと飲み始めた。前に吐かれたことがあるので、酒を飲まれると気が気じゃない。
「ぷふぁ‼美味い‼・・・で、参観日だっけ?それって弟子ちゃんの奴でしょ。行ってあげなさいよ、アナタが悩んでたってことは、誰も行く人居ないんでしょ?」
くっ、鋭い。やはり敵わないな。
前に就活の時に着た黒のリクルートスーツはあるので行くことは可能なのだが、それにしたって血縁関係じゃない私が行ったところで……。
「もう、眉間に皺寄せて難しいこと考えてるんじゃないわよ。ようは愛でしょ愛♪」
「愛ですか?」
「そうよ愛が地球を救うんだから、だからアナタの愛で弟子の一人を救うなんて造作も無いでしょ?……ゲッ。」
最後のゲップは余計だったが、確かに地球を救ったクセに弟子の一人も救えないのは駄目か。
よし、この二階堂 明は決意を固めたぞ。
こうして私は押し入れから黒のリクルートスーツを探し始めた。
~現在の教室~
火種です。
やはり両親が来ないことに意気消沈していた私ですが、黒いスーツに身を包んだ師匠が突然現れたのでビックリしました。
私の過剰の反応を見た、男の担任の鈴木先生が師匠に話し掛けます。
「あの失礼ですが、日ノ本さんの関係者の方ですか?」
「はい。私は日ノ本 火種のししょ……いえ、姉の様な者です」
「あぁ、お姉さんですか、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
深々とお辞儀をする師匠。もしかして私の為に参観日に来てくれたのでしょうか?そう考えると涙が止まりません。
「じ、じしょう~~~~‼」
「な、涙を拭いて前を向け、授業が始まるぞ。」
少し恥ずかしそうな師匠を目に焼き付けながら私は授業に臨みましたが、涙で前が見えずに授業の内容が全く頭に入っていきませんでした。
私はこの日のことを一生忘れることは無いでしょう。
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