第39話 狂人

 よぉ、黒井 霧子だ。いきなりだが最悪な気分。

 放課後になってアタシが帰ろうとしていたら、火種の野郎が私とみどりの手を掴んでズルズルと屋上まで連れて行ったからである。

 もちろん抵抗はしたが、あの女の鍛え上げた手を振りほどくこと出来なかった。せめてもの抵抗をとアタシが罵詈雑言を散々言ってやったのだが、火種はニコニコしながら「いいから♪いいから♪」と言うだけであった。

 屋上に着いて火種がようやく手を離し、アタシとみどりは奴に握られていたところを見る。すると奴の手形が赤々と残っていて凄く嫌な気分になった。

 屋上には雫と彩夏の二人はすでに居て、どうやら事前に集まるように言われていたらしい。アタシとみどりはそんな話は聞いちゃいないが、日頃のボイコットから、アタシら二人には言っても来ないと判断されて強制連行されたらしい。まぁ、判断としては正しいよ。

 こうして不本意ながら魔法少女が五人勢揃いしたわけだが、一体どんな理由で集められたのか聞いておかないとな。


「おいクソビッチ。テメーどういう理由でアタシらを集めたんだよ?ことと次第によっちゃぶっ殺すぞ。」


 アタシもとっくに堪忍袋の緒が切れているわけで、ドスの効いた声でそう聞くと、火種の野郎は顔色一つ変えずに、軽くこんなことを言ってきた。


「ねぇ、みんな♪今から敵の本拠地に殴り込みに行こうよ♪」


「はぁ?テメー頭おかしいのか?」


 アタシが反射的にそう返したが、他の奴らも大体同じことを考えているだろう。どうしてわざわざ敵の本拠地に殴り込みに行く必要があるんだ?死にに行くようなもんだ。


「日ノ本さん、それは無茶ですよ。敵の戦力も分かってないんですから。」


「そうだよ。火種ちゃん。」


 雫とみどりが代わる代わるそう言うと、火種は不思議そうに首を傾げた。


「どうして反対するの?敵は早めに潰した方が良いに決まってるのに。」


 やっぱりイカれてやがるのかコイツ?最近力を付けて調子に乗ってるのは分かっていたが、それにしたってアホな事を言い過ぎだろ?


「ひ、火種ちゃん怖い。」


 ビクッと涙目になる彩夏。アホで天然なコイツでも、今の火種が明らかにおかしいことは分かるらしい。


「彩夏ちゃん、怖くないよ。私の何が怖いのかな?」


「ひっ‼」


 ニコッと口角だけ上げているが、目だけは死んだ魚の目という、なんとも猟奇的な顔で彩夏のことを見る火種。これはもうホラーだろ。

火種のあからさまにぶっ飛んだ態度に流石のアタシも引いてしまい、怒りすら湧いてこなくなった。ここは至って普通の質問を投げかけることにしよう。


「大体テメー、敵の本拠地とか何処か分かってるのかよ?」


「ううん、知らない。」


「はぁ?知らなくてどうやって殴り込むんだよ?」


「チャガマさんなら知ってるんじゃないかな?今は何処かに行ってるみたいだけど、その内に来ると思うから、そしたら敵の本拠地を吐かせて、みんなで殴り込みだね♪」


「しねーよ、バーカ。」


 マジで頭イカレてやがる。鍛え過ぎると脳まで筋肉になるって本当なんだな。


「むぅ、霧子ちゃんノリ悪い。他のみんなは行くよね♪」


 ゲームセンター行くよねみたいなノリで聞いて来る火種だが、結果は火を見るよりも明らかだわ。


「いえ、私は行きません。」


「ご、ごめんなさい、私も怖い。」


「さ、彩夏、今の火種ちゃんと一緒に居たくない。」


 三者三葉で火種の誘いを断る。こうなると火種はピタッと笑うのを止め、下を向いて俯いた。クソがよ、面倒臭い野郎だぜ。

そうして火種はブツブツとこんなことを言った。


「どうしてみんな火種に反対するの?弱いくせに。」


「あっ⁉テメー今なんて……」


「弱い奴は強い奴に逆らってんじゃねぇよ‼」


 アタシがの言うのに被せて怒鳴り声を上げる火種。何だコイツ?マジでヤベーな。


「はぁ、分かったよ。口で言っても分からないなら、拳で語るしか無いよね……変身。」


 いともあっさり変身して、ウィザードフレアになった火種。

 おいおいマジかよクソ。コイツまさかアタシらとやるってのかい?


「ちょ、ちょっと日ノ本さん。落ち着いて下さい。私達で争ってどうするんです?」


 雫の奴が火種を宥めようとするが、焼け石に水ってやつだな。火種は変身を解く様子はない。


「話し合いで解決できないなら殴り合え。師匠ならそういう筈……うん、多分。まぁ、どっちでもいいや。」


 おいおい師匠の教えでもなんでもねぇのかよ。

 火種は今にも襲い掛かって来そうだったので、アタシ達も変身した。

 コイツ調子に乗ってるみたいだから、アタシらでお灸をすえてやるか。














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