第14話 ウチくる⁉

 二階堂 明だ。

 私の一日は朝五時に目覚め、歯磨き、瞑想、軽い筋トレ、プロテイン(食事)の摂取、そして朝七時からの10キロランニングから始まる。

 ではランニングに行くとしよう。

 今日もいつもの様にランニングシャツ、短パンに着替え、朝七時丁度に玄関の扉を開けると、最近ではお馴染みになった顔が私の前に現れた。


「おはようございます♪来ちゃった♪」


 何を隠そう、扉の外に居たのは日ノ本 火種である。私と全く同じ格好をした火種がニコニコしながらそこに立っていた。

 私は脊髄反射的に玄関の扉を閉めようとしたのだが、すかさず火種は扉の隙間にガッと足を入れて来て、扉を閉まらないようにした。


「ぶー、冷たいじゃないですか師匠。愛弟子が早朝から師匠に会いに来たというのに。」


「弟子なんて取った覚えはない。勝手に来て勝手にブーたれるな」


 最近、弟子を自称する火種に付き纏われて迷惑している。この間なんかスーパーで買い物していたら買い物かごの中にコイツが入っていたことがあった。会計の時に気が付いたのだが、通りでカゴが重いと思った。


「とにかく待って下さいよ。今日は私だけじゃないんです。他の皆も連れてきました」


「他の皆?」


 私は恐る恐る扉を開け、外に出てみると、そこには青い髪のオカッパ、金髪のポッチャリ、オサゲ髪のメガネが立っていた。どれも火種の同級生らしく、見覚えもあった。ちなみにこの子達も私と同じ服を着ている。


「どうもおはようございます」


「おはよー、私お腹空いちゃった」


「お、おはようございます」


 オカッパ、ポッチャリ、オサゲメガネの順に挨拶して来る三人娘。この子達は確か火種と同じ現役の魔法少女だな。


「申し訳ありません師匠。霧子ちゃんも誘ったんですがボイコットされてしまいまして、次は首に鎖を付けてでも連れて来ます」


「いやいや来なくていい。むしろお前達も来るな。私のプライベートを侵食して来るな。とにかく帰れ」


 ただ少し手助けしただけなのに、この日ノ本 火種という女は私を慕い過ぎでは無いだろうか?正直恐ろしくて鳥肌が立つんだが。


「日ノ本さん、二階堂さんも嫌がってる様だし、今日は帰った方が良いんじゃ無いでしょうか?」


 おっ、オカッパ良いことを言うな。君には常識というモノがありそうだ。


「あはは、大丈夫、大丈夫、師匠はツンデレだから今は照れてるだけだよ」


 ツンデレじゃない。ふざけるな。人に変な属性を追加しようとしてくるな。いいから早く帰ってくれないかな?

 こんな風に玄関の前で私達が騒いでいると、ふいに隣の部屋の扉が開き。中から隣の住人が出てきた。


「もうどうしたのー。朝っぱらからうるさいわよー」


 金髪ワンレンの髪をボリボリ掻きながら、白いヨレヨレのTシャツ、下は黒のパンティという出で立ちで、私の隣の住人である本宮もとみや 沙羅さらさんが出てきた。綺麗な顔立ちでスタイルも良い女性なのだが、酒癖が悪く、ちょっと残念な人である。

 また余計なのが追加されて溜息を着く私。


「あら可愛い子達が勢ぞろいね♪どうしたの?二階堂ちゃんの隠し子?」


 寝ぼけ眼だった目をキラキラと輝かせる沙羅さん。こうなると大変である。


「沙羅さん、騒いで申し訳ありませんでした。すぐに帰らせますから、沙羅さんは二度寝なり、向かい酒でもして今日もだらしなく生きて下さい」


「もう何その言い方。プンプンだぞ」


 28歳のクセに頬を膨らまかせて、ぶりっこ怒りをする沙羅さん。見ていて痛々しい。


「ちびっ子ちゃん達、私の名前は本宮 沙羅。気軽に沙羅ちゃんって呼んでね♪好きな物はお酒、好きな男性のタイプもお酒よ♪」


 酒は人類ではない。おそらく昨日飲んだ酒がまだ抜けて無いのだろう。本当に色々と残念な人だ。


「初めまして、私は日ノ本 火種です。いつも師匠がお世話になってます」


「はーい、お世話してまーす♪」


 火種の保護者面が気に入らないし、飲んだくれに世話になった覚えはない。私のイライラが加速的に上がって行くのを感じる。落ち着け私、扉に八つ当たりして壊すのは卒業したはずだろう?


「二階堂ちゃん、可愛いお弟子さん持ったわね♪」


「弟子は取ってません。もうお帰り下さい」


 これ以上この人が絡んで来るとロクなことになりそうも無いので、帰ることを促すのだが、一向に帰る気配がない。

 と、ここで火種が余計なことを言い始めた。


「沙羅さん聞いて下さいよ。師匠が私達をランニングに連れて行ってくれないんです」


「まぁ、駄目よ二階堂ちゃん。お弟子さんなんだから、ちゃんとお世話しないと」


「だから弟子じゃないんです」


「とにかく、ランニングに連れて行きなさい。先輩命令よ」


「……チッ、分かりましたよ」


「舌打ちしないのー。プンプン♪」


 こんな時ばかり先輩風吹かせてきやがってよ。いつも迷惑かけられてる私の身にもなってみろってんだ。そのぶりっこウゼーんだよ。

 と、思わず本音がポロリしそうになったが、私は大人なのでグッと堪えた。











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