第11話 この手が真っ赤に燃える
ダーマスだ。
私はデストロ総帥の下に仕える三幹部の一人であり、主に防御呪文を得意とする魔物である。
部下であるブータンは死んだが、私自らが出向いて魔法少女を抹殺しようとしている。それは未だ誰も成し遂げたことの無い偉業であり、デストロ総帥もさぞお喜ばれになるだろう。しかしながら無粋な邪魔が入り、私を苛立たせている。
元魔法少女だか知らないが、魔力量の小さな脳まで筋肉出てきて良そうな女である。こういう脳筋の奴は私が最も嫌うところであり、話していてすごく疲れる。
先程、魔力量の違いが戦力差にはならない様なことを言っていたが、片腹痛い。
魔力量が違えば強大な魔法を打てる。これは誰でも分かる簡単な道理である。
さて、戯言を抜かす女を殺して、魔法少女達も早々に亡き者にしようか。
私は右手の平を脳筋女に向け、魔力の籠ったエネルギーの弾を作り出し、それを撃ち放った。
“バシュッ”
放たれたエネルギーの弾は一直線に脳筋女に飛んで行く。私の計算上これ一発で死んでしまってもおかしくないが、流石にあれだけ大見得切って出てきたのだ、もう少し楽しませてくれるとは思うのだが。
「そんなハナクソみたいな玉で私が倒せるか。デコピンで十分だ」
脳筋女はそう言うと自分の右手でデコピンの構えをし、私のエネルギー弾を迎え撃つ(?)準備をした。いやいや、いくら何でも舐め過ぎだから、死んだなアイツ。
せめて死んだ時には盛大に笑ってやろうと考えていた。
しかし、ココで信じられないことが起こった。
「せぇい‼」
“パァン‼”
脳筋女はエネルギー弾に本当にデコピンをかまし防いだ・・・ならまだ分かるのだが、あまつさえそのエネルギー弾がコチラに返って来ているのである。それも物凄いスピードで。
「チッ、どういうことだ⁉」
私は何が起こったか訳が分からなかったが、咄嗟に自分の前にバリアーを張った。
”ドォオオオオン‼”
私の撃ったエネルギー弾はバリアーに当たって霧散。これは予想通りの結果だが、私の攻撃が返されるなんて本当に訳が分からん。あんな小さな魔力量の女が私の攻撃を防ぐばかりか、返して来るなんてあり得ない。あって良い筈が無い。
せいぜい出来て軽減するぐらいだろう。一体どんな小細工を使ったんだ?
「惜しかったな。まぁ、あんなハナクソ弾返した所で倒せるわけも無いか。今度はコチラから行くぞ」
両手をサムズアップの様な状態で構える脳筋女。一体何をするのか分からんが、私のバリアーを突破する攻撃があの女に出来るわけが無い。仮に女の魔力量を全て込めて攻撃に回したとしても、私の今張っているバリアーはビクともしない筈だ・・・だが念には念を込めて、バリアーを二重、いや三重にしておくか。
「指弾・火花」
脳筋女がそう言うと、サムズアップで構えた右手の親指で人差し指を弾く。すると豆粒みたいな小さな火の玉がコチラに飛んで来る。大したことない豆鉄砲だと嘲笑しようとしたが、弾かれた火の玉はさっきの返された私の弾とは比べ物にならないスピードで、私が笑う間もなくバリアーに到達した。
"パリン‼”
「・・・はっ?」
私は驚いた。何故なら豆鉄砲は私の一枚目のバリアーに穴を開けたからである。いとも簡単に、まるで公園で野球をしていた少年たちが打ったホームランボールが、隣の家の窓ガラスを突き破ったみたいに。二枚目のバリアーまで貫通はしなかったが、一枚目でも突き破った時点で異常事態である。
その光景を見て唖然とするしか無かった私だが、相手は攻撃の手を緩めない。
先程と同じ様に、今度は両手で次々に先程の火の玉を撃ち込んで来る。そうしてまるで機関銃の様に。バババババッ‼っと音を立ててバリアーに当たり続ける火の玉達、先程と同じ様に一枚目を容易く貫通し、一枚目のバリアーが穴だらけになり防御の役目を果たさなくなり、次は二枚目を貫通。一枚目と同様に穴だらけになり、間もなくして二枚目も防御の役目を果たさなくなる。そうして恐れていた三枚目に到達、三枚目を初めて貫通した弾が私の右頬を掠め、私は正直肝が冷えた。
すぐさま四枚目の新しいバリアーを張ろうとしたが、その前に私のお腹に火の玉が着弾した。
“ドォン‼”
「ぐぅうううう‼」
あまりの痛さに悶絶する私。当たってみて分かったが、やはり火の玉それ自体に威力があるわけでは無い。これはただ単純に撃ち出されるスピードのせいである。火の玉の魔力量×スピードの掛け算により、私のバリアーを突き破る威力を出している。それは分かった。しかしながら問題はそのスピードをどう出しているかである。
これは推測、あまりにも馬鹿げた推測なのだが、もしかするとあの女、あの火の玉を指先で思い切り弾いて、凄まじいスピードを出しているのではなかろうか?普通に考えればありえない話だ、物理的に考えて人がピストルみたいな速度で玉を撃ち出せるわけが無い。だが魔力量が少ない以上そう考えるのが非常に合理的なのだ。
だが、だとするとあの女は一体どんな鍛え方をしているのだ?
私は火の玉の突き刺さる様な痛みに耐えながら、目の前の人間の皮を被った化け物に恐怖した。明らかに異質な魔法使い、こんなの相手にしたことも無いから対応のしようが無い。最大級の攻撃呪文でも当ててみるか?いやでも私のバリアーを物理的に壊して来る輩だ。三幹部の中でも一番攻撃力の低い私の最大級の魔法放ったぐらいでダメージが通るとは到底思えない。
そう考えると次に私の取る行動は一つだった。
私は脱兎のごとく火の玉の連撃から逃げ、磔にされている魔法少女達の元へ向かった。こういう時の為の人質である。卑怯者だと誰かが私を罵るかもしれないが、私にとってそれは誉である。人間の負の感情から生まれし我々にとって罵詈雑言は時として誉め言葉なのだ。
自分の作ったバリアーをすり抜け、磔の魔法少女まであと少し。さて一人ぐらい殺しても問題あるまい、そちらの方が良い脅しになるかもしれない。
あの脳筋も、自力で走って物凄い速さで追って来ているが、私の魔法少女達を覆うバリアーは私自身が作り出せる最高の物である。そう易々と破壊することは出来まい。
そう考えていたが、何やら胸騒ぎがするので脳筋の方を振り向くと、奴はバリアーの前で立ち止まっていた。ホッ、やはりあのバリアーを突破することは出来ないのだ。そうだよな、あんなちっぽけな魔力量では流石に……。
そう思いかけていた私だったが、脳筋は右手をスッと構え、その手で私のバリアーをコンコンと二回ノックした。ただそれだけ、ただそれだけである。
“ピシッ”
本当にただそれだけなのに、バリアーに一つの亀裂が入った。ありえない、ありえない、ありえて堪るか。
“ピシッピシシシッ”
亀裂はドンドン大きくなり、あっと言う間にドーム状のバリアーの全域にまで広がった。私の不安は最大級にまで膨らみ、こうなると次の未来は嫌でも分かってしまう。
“バリーン‼”
ノック二回でバリアーは粉々に砕けてしまった。散り際まで鮮やかな私のバリアー。
ハハハハハハッ‼……あまりのことに発狂してしまいそうだ。
何なのだ?あの女は一体何者なんだ?
と、そんなことを今考えている暇ではない。私の今すべきことは磔の魔法少女達の元に辿り着くことである。そうしなければ私に待っているのは死なのだから。
私は前だけを見て全速力走った。だが死神はダンダンッ‼と大きな足音を立てながら私のすぐ後ろまで来ていた。
「射程距離、取ったぞ‼」
すぐ後ろでそう聞こえたので私が思わず振り向くと、女は右手の人差し指に自分の魔法力を込めて、それを私の左胸に目掛けて突いて来ようとする。左胸というと私の命の源のコアがある場所である。
脳筋は鬼のような形相で私の左胸だけを睨め付けている。
「二階堂流活人拳‼一点突破・焔(いってんとっぱ・ほむら)‼」
「ヘ、ヘルファイ……」
咄嗟に私は魔法を放とうしたが、聡明な私にはそれが無駄な抵抗であることは分かっていた。
“ズンッ‼”
重い音と共に突き刺さる脳筋の右手の人差し指。私は自分のコアがバキッと砕けた音を聞いた。あまり聞いていて心地の良い音ではない。命が砕ける音である。
「お、おい女ぁ、貴様の名前は何だぁ?答えたくないなら魔法使いとしての名前でも良いぞォ……」
自分の体が塵になって行くのを感じながら、私は最後に自分を倒した相手の名前ぐらいは知りたくなった。なに、ただの気まぐれである。深い意味はない。
先程、名は名乗らない様なことを言っていたので、てっきり教えてくれないかと思ったが、人間という生き物は死に行く者に対しては優しくなるものだった。脳筋女は淡々とこう答えた。
「ウィザード・グレン」
「ほぉ・・・・格好良いじゃないか」
結局、魔法使いとしての名前しか教えてくれなかったが、コチラも気まぐれで聞いたまでのこと、別に何でも良かった。
魔物として生き、魔物として死んでいくことに後悔は無いが、人質なんて取ろうとせず、真っ向からこの女と戦えば、もっと清々しい気持ちで死ねたのかもしれないと、狡猾な自分らしからぬことを考えてしまった。
ゆえに最後は自分らしい言葉で締めることにしよう。
「貴様なんぞぉ‼デストロ様に殺されてしまえぇ‼」
吐き捨てる様に私はそう最後に言い残した。
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