第10話 紅蓮の魔法少女再び

 火種です。なんとかブータンに勝てたので、これからみんなを助けに行きます。


「みんな―‼私勝ったよ―‼」


 疲れてヘトヘトですが、みんなのところに向かう足取りは軽いです。

ですがここに来て異常事態。


“バーン‼”


「痛ッ‼」


 突然何かに鼻をぶつけてしまいました。

しかしながら、私の目の前には何も無い様に思えます。私は左手で鼻を擦りながら、   右手で前に手をやると、そこには見えない壁の様なモノがあります。これはもしかして魔法でしょうか?

 魔法だとしたらブータンの物ではない可能性が高いです。大体は魔物の魔法っていうのは本人が消滅すると、残っている魔法も消えてしまうケースがほとんどなのです。

 ということは、まだ近くに魔物が居るということでしょうか?私は周囲をぐるりと見渡し警戒を強めます。ですが何処にも魔物の姿は見えません。


「何処を見ているんです?」


 後ろから声がして振り向こうとしましたが、バーン‼という衝撃音と共に私は前方に飛ばされてしまいました。そのまま前のめりに倒れ、すぐに起き上がって後ろを振り向きました。

 するとそこには白装束の様な真っ白の服を着た人型の狐の魔物が立っており、楽しそうな顔で私のことを見ています。

 この魔物には見覚えがあります。たしか三幹部の一人ダーマスです。


「そう簡単には魔法少女達は渡せませんよ。残念でした」


 ダーマスはクッククと私をあざけ笑いますが、こういう時こそクールにしろと師匠なら言うでしょう。もうひと頑張りです。


「ダーマスそこを退いて下さい。私はブータンを倒したんだから皆を開放してもらえる筈です」


「だから、それはあの豚が勝手に言っただけでしょう。こちらは規律正しくデストロ総帥の命を持って動いているのです。個人的な約束など二の次、三の次。せっかく魔法少女を一掃できるこのチャンスを逃す手はありません」


 やっぱりこういう展開ですよね。所詮は魔物、約束なんて平気で破るし、卑怯な手も使ってきます。だからこそ倒すのに躊躇はありません。

 私はダーマスに向かって走り出そうとしました。この拳をあのニヤケ面にぶち込んでやります。ですが、どうしてだか足が上手く動かずにガクガクと震えています。別にダーマスに怯えているワケでは無いのですが足の震えが止まらないのです。


「おやおや、大分お疲れの様ですね。それで私と戦うつもりですか?そこで休んでいることをお勧めします。その間にお仲間の首は斬り落とされているかもしれませんがね♪」


「そ、そんなことさせません」


 心は戦う気満々なのですが、体が付いて来ません。こういうことってあるんですね。いつもは心が先に折れてしまうので体は動くのですが、今日は体の方が先に駄目になってしまいました。クソッ、悔しいなぁ。

 視界も歪んで来て立っていることもままなりません。ダーマスが私に何かを言って嘲笑していますが、その言葉すら私には届かないのです。

 ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張りましたが、もう流石に・・・。

 すると私の肩に何やら温かい物が乗っかりまして、どうやら誰かが後ろから私のことを倒れない様に支えてくれているみたいです。

 振り向くとそこには大きなオッパイが見えました。


「し、師匠」


「人の胸を見て誰だか判断するんじゃない。このバカ弟子が」


 いつもの厳しい顔とは違い、何処か優しい顔の師匠。こういうギャップって堪りませんよね。まさか助けに来てくれたのでしょうか?だとしたら嬉しいですが、まだワンチャン発破をかけに来た可能性もあるので気を緩めるのは早いです。


「俺も居るぜぇ」


 足元の方で声がしたので一応見てみると、予想通りドヤ顔のチャガマさんの姿が。チャガマさんが来ても戦力的には何も変わらないので居ても居なくても、どっちでも良いのですが、それを言うとチャガマさんが傷付くことは分かっているので私は何も言いません。


「さて、ここから先は私が代わる。アナタはココで私の戦うのを両の眼にしっかりと焼き付けておけ」


 師匠のこの言葉に私は大変驚きました。あれ程自分が戦うことに消極的だったのに、どうして戦うことにしたのでしょう?


「し、師匠が戦いになられるんですか?相手は幹部の一人ですよ、戦うにしても一緒に戦いましょう」


「だからお前はアホなのだ。私があんな狐一匹に負けるか。黙って見ておけ」


 ピシャリとそう言うと、師匠は私を押しのけてダーマスに歩いて近づいて行きます。

 ダーマスはそれを見て、不思議そうな顔をしています。きっとこの場に来た師匠が何者なのか分からず困惑しているのでしょう。

 ある程度まで師匠がダーマスに近づくと、師匠が足を止め、二人は睨み合いながら舌戦を始めました。


「貴様は何者だ?まさか、そんな小さな魔力量で私と戦うつもりじゃあるまいな。ハッキリ言って死ぬぞ」


「ほぉ、お前は見るだけで魔力量が見えるのか?だが、それが何だと言うんだ。魔力量の違いが戦力の決定的差でないことを教えてやろう」


「このダーマス相手に、よくそんな戯言を吐けたな。私は三幹部の一人だぞ」


「なら大変だな」


「何がだ?」


「今日私がお前を殺すから、一枠空くぞ、次の後釜を決めるのが大変だなと思って」


「なっ‼」


 これにはプライドの高そうなダーマスは怒りに顔を歪めます。口喧嘩も強い師匠・・・素敵ですね♪


「これ以上問答は無用だ。弟子の勝利にケチを付けたお前を私は許さない」


「ほ、ほぉ、では最後に貴様の名前だけ聞いておこう。名乗れ」


「貴様などに名乗る名前は無い‼変・・・身‼」


 圧のある声を出した後、師匠が右手をググっと力強く天に掲げ、師匠の体が炎に包まれます。そうして炎が消えた後、真紅のフリフリドレスを着た師匠の姿が現れました。師匠の豊満な胸のせいで胸元がちょっとキツそうですが、私的には眼福な魔法少女姿です。


「二階堂‼これも受け取れー‼」


 チャガマさんがそう言うと、魔法少女姿の師匠の真上に赤いローブの様な物が現れました。


「おいクソダヌキ‼なんだコレは‼」


 真上に現れたローブを指差し、すぐに大声でチャガマさんに聞く師匠。勝負に水を差されたと思ったのか、ちょっと怒った様子です。

 ココでチャガマさんの説明が入ります。


「それはOBウィザード達に最近配り始めた【マスターローブ】だ‼魔法防御適正に優れているから、ある程度の魔法攻撃には耐えることが出来るぞー‼」


「フンッ‼礼は言わんぞ‼」


 師匠はそう言うと、上にあるローブを素早く取り、それを身に纏いました。

 大きめのローブが足まで隠してしまい、師匠の露出が減ったのは残念ですが、よくお似合いです。


「そんな物を身に纏ったところで、このダーマスには勝てんぞ」


「問答無用と言った筈だ。さっさと掛かって来い」


 いよいよ二人の戦いが始まろうとしています。師匠の戦う姿が見れるなんて私興奮を隠せません。


「火種、よく見てろ。お前の師匠ウィザード・グレンの戦いをな」


 何故かチャガマさんが偉そうなのが癇に障りますが、とにかく師匠とダーマスの戦いが始まります。






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