第7話 走れメロスのように
どうも初めまして、私の名前は
ひょんなことから魔法少女の戦いに巻き込まれ、私自身も水の魔法使いウィザード・アクアとして戦うことになり、今日まで戦ってきたのですが、今朝方、十字架に磔にされてしまいました。もう一巻の終わりです。
さようなら父よ母よ妹よ、出来ることなら、この魔法少女のフリフリ衣装で死ぬのだけは勘弁して欲しかったです。
「びえええええええええええん‼彩夏お家に帰りたい―――――‼」
この期に及んで惨めたらしく泣いているのは、
泣き叫ばれると煩くて辞世の句も読めないのでやめて欲しいです。
「うるせぇんだよ‼クソデブ‼泣いてもテメーの豚小屋に帰れないんだから黙ってろ‼殺すぞ‼」
「ひっ‼」
彩夏ちゃんを口汚く脅すのは
その怖い見た目に比例して性格も悪く、口を開けば悪口や不平不満を毒づき、先生にまで牙を向く問題児で、周囲からは煙たがられています。一応、彼女も魔法少女ウィザード・ミストなのですが、事ある毎に魔法少女の使命をボイコットするので私も頭を抱えていました。
まぁ、今日で我々は死ぬので頭を抱える必要も無くなりますね。その点は清々します。
「ひっく‼酷いよ霧子ちゃん‼」
「話し掛けんな‼アタシに話し掛けるぐらいなら、あそこに居るブタの魔物にブヒブヒ言って命乞いしてみろよ‼同じブタだから助けて貰えるかもな‼ファック‼」
「びえええええええええええん‼彩夏ブタじゃないもーん‼」
騒がしいですね。もっと死ぬ前は厳かに出来ないものでしょうか?
「もう霧子ちゃん、彩夏ちゃんをいじめないの」
そう言って霧子さんを嗜めるのは、霧子さんの隣で十字架に磔にされている
彼女はウィザード・フォレストという魔法少女に変身して戦います。
さぁ、私と皆さんの自己紹介も終わったところで、我々が何故十字架に磔にされている理由を説明します。まぁ、簡単に言ってしまえばブタの魔物との戦いに敗れ、十字架に磔にされてしまったのです。
魔物というのは人の心のマイナスの感情が集まって具現化した化け物であり、私たち魔法少女はそれを退治して消滅させるのが使命であるのですが、朝方戦ったブタの魔物ブータンは強敵でして、私達の魔法少女が束になって戦っても敵わず、この様に四人磔にされてしまいました。
一人助かったウィザード・フレアこと日ノ本 火種さんだけは「絶対助けに帰ってくるからね‼」と言い残して戦略的撤退をされたのですが、魔物が決めたタイムリミットまであと30分、私は彼女は帰って来ないと考えています。
「火種ちゃん、来てくれるかな?」
緑さんがそう言うと、霧子さんがチッと舌打ちをして、その後ペッと唾を吐き捨てました。
「来るわけねぇだろ。どうせ来たって敵いもしないのによ。アタシだったら100%来ないね」
「で、でも、火種ちゃん良い子だから私達のこと諦めたりしない筈だよ」
「どうだかな、アイツ誰とでも仲良く接してるけど、そういう奴が一番信用ならねぇんじゃねぇか?普段は相手に合わせて上手く立ち回って、土壇場になったら自分可愛さに本性が出るかもしれないぜ」
この霧子さんの発言に私は少しばかり共感してしまいました。火種さんは誰とでも仲良くしようとしていますが、時折、何処か疲れた様な顔をしていました。普段の彼女は天真爛漫な元気娘といった感じですが、誰とでもニコニコ接する彼女に私も違和感を覚え、表面上は仲良くしていましたが、本当は苦手に感じていたのです。
「ゲヘへへへへ♪お前等、よく喋るな♪まぁ、最後のお喋りを存分に楽しめや♪」
下卑た笑い声と共に私達の会話に入って来る、ブタの魔物ブータン。彼の特徴はラノベやアニメの異世界転生モノなどで見るオークの様な外見であり、体には硬くてゴツゴツした黒い鎧を身に纏って、身の丈程の大斧を右肩に担いでいます。
黒い鎧は魔法耐性があるらしく、私達の魔法はことごとく防がれ、ブータンの振り回す大斧は一撃必殺の破壊力があり、私達は戦って程なくして地面に倒れ伏しました。ブータンの圧倒的な力を前に、これまで魔物達相手に戦って勝って得た自信は粉砕され、戦意喪失したのは言うまでもありません。
もう私はブータンに何を言い返す気にもなりませんが、私達の中で霧子さんだけはまだ彼に言い返す元気があります。
「ブ、ブタ野郎、アタシが死んだら悪霊になって呪い殺してやるからな‼」
「おうおう、震えた声で気丈に振舞って♪可愛いなぁ♪褒美としてお前から食べてやるよ♪若い女の肉体はさぞ美味いだろうなぁ♪」
「くっ‼」
霧子さんの体がぶるりと一瞬震えたのを私は見逃しませんでした。本当は怖いのでしょう、無理もありません。私達は戦う魔法少女といえども女子中学生。まだ義務教育も終わっていないのに、こんなところで死にたくはありませんよね。
死を前にして先程から私が冷静に説明しているのは、もう諦めてしまっているからです。生きることを諦め、死を覚悟してしまっている。極限状態の中で自分らしく居る為には、こうするしかありませんでした。
最後ぐらいみっともない姿を見せず、潔く死にたいですからね。
空が夕焼け色に染まり、タイムリミットまで残り15分を切った頃、私達は誰も喋らなくなり、顔に絶望を浮かべ、もう本当に夢も希望も無い…筈でした。
筈だったのですが遠くの方で一人の小さな少女の人影が私には見えました。最初は幻かと思いましたが、段々と人影が近づいて来ると、それは見知った顔の少女であり、まごうことなき火種さんでした。彼女は赤いジャージに身を包み、何処か精悍な顔立ちになっています。
そうして彼女は私達を前にしてこう言いました。
「みんな待たせたね」
いつもの貼り付けた様な笑顔ではなく、心からの満面の笑みを見せる火種さん。
別れてから数時間しか経っていませんが、まるで別人の様です。
一体彼女に何があったのでしょうか?
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