第5話 その拳に殺意を乗せて 前編
どうもプリティな精霊チャガマだ。
もうかれこれ30年以上魔法少女達を見て来たが、ここまで凄惨な修行は見たこと無い。
「はぁはぁ・・・」
「どうした?もう終わりか?」
殴られているのは二階堂の筈なんだが、四つん這いになって息も絶え絶えなのは火種の方。二階堂の方は殴られている間は腕を組んで立ったままで、まるでそこに根でも張ってるんじゃないかと思うぐらいである。
頑丈にも程がある。思えば十年前、コイツを魔法少女にした俺の判断は戦略的には間違いでは無かったが、ニチアサの魔法少女的には判断ミスだったと言わざるを得ない。どう見てもこの女は深夜枠の凄惨なバトル物に登場するキャラである。
さぁ、メタな発言はこのぐらいにして、もう五時間以上、火種は二階堂を殴り続けているが一向に修行の成果は見られない。むしろ疲労困憊で、さっきからへねちょこパンチしか打てていない。令和のこの時代にこんなスパルタ特訓は流行らないと思うのだが、二階堂が怖くて流石の俺も何も言えない。頑張れ火種。
「ふぅ、仕方ない。一時間だけ休憩を取る。一時間経ったらまた再開するから、それまで休んで体力回復させな」
そう言うと二階堂は腕組みしたままベンチに座った。五時間も殴られ続けて息一つ乱さないなんて本当に化け物だ。いや、もしかしたらこの化け物を生んだのは俺なのかもしれない。ただでさえ化け物だったこの女に魔法少女という任を与えてしまったから、それで化学反応が起きて今のこのパーフェクトソルジャーが生まれてしまったのだ。
今ならフランケンシュタイン博士の気持ちが良く分かるぜ。
まぁ、とりあえず火種に声を掛けておこう。さっきから四つん這いのまま動かないし。
「火種~、大丈夫かぁ?飲み物が欲しいなら買って来るけど何が良い~?」
プリティな精霊らしく舌足らずな感じで優しく話し掛ける俺。だが次の瞬間、俺は魔法少モノににあるまじき光景を見ることになった。
「うっぷ、おえええええええええええ‼」
火種が盛大に吐いたのである。流石に中学生の吐しゃ物を見るのは忍びなかったので、俺の映像魔法でキラキラのエフェクトをかけて誤魔化してみたが、胃液の酸っぱい匂いまでは隠しようがなかった。ここまで肉体的にも精神的にも追い込むなんて二階堂という女は鬼である。ここは流石にクレームの一つでも入れておこう。
俺は勇気を持って二階堂に近づいた。
「おいコラッ‼流石にやり過ぎだろ‼魔法少女にゲロ吐かせる奴が居るか‼」
「うるさいな。ゲロぐらいどうした?私は修行中に内臓にダメージを受けて、ゴファ‼っと血を吐いたことがあるぞ」
「えっ?何この子怖い‼平然とそんなことを言うんだもんな‼最近のニチアサ特撮でもそんなシーン無いぞ‼」
やってもうたー。一番暇そうな奴選んで来てもらったが、こんなことになるなら、子持ちでも良いから優しいOBを選ぶんだった。
「まぁ、大丈夫。殴られているのはコッチだから、向こうが血反吐を吐くことは無い。もしかしたら手が使い物にならなくなることはあるかもしれないけど」
「サラッと怖いこと言うな。鍛え過ぎなんだよお前。それで火種はモノになりそうか?」
なんだかんだ言ってそれが一番大事である。火種があの豚の魔物を倒せなかったら磔にされている四人が殺されて、火種も殺されるだろうし、まさかの悪い奴らに地球征服されて終るというバッドエンドコースである。
だがこんなコッチの都合も考えないで、珍しく二階堂がニカッと笑ってこんなことを言った。
「全然ダメ。間に合わないかもな」
・・・あぁ、もう、昼間だけど酒飲みたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます