第3話 めぐりあい公園

 私の名前は日ノひのもと 火種ひだねと言います。中学二年生の元気だけが取り柄の女の子です。

 今、チャガマさんから公園で待っている様に言われ、ブランコに座って意気消沈しています。こんなとこに居て良いわけ無いんだけどな。

 チラリと公園の時計を見ると、タイムリミットまであと三時間程であり、本当にこんな所で油を売っている場合ではありません。


「おっ、居た居た。おーい」


 チャガマさんが帰ってきました。二本足でテクテク歩いてくる姿は普段なら可愛いと思えるのですが、私の心にそんな余裕はありません。

ん?チャガマさんの後を赤いジャージ姿のポニーテールの褐色の美人さんが歩いて来ます。美人なのも目を引きますが、鼻の所の一文字の傷も気になります。


「こちらが現魔法少女の日ノ本 火種だ」


「どうも火種ちゃん。私は二階堂 明だ。別に自己紹介することも無いが、昔、魔法少女をやっていたよ」


 あっ、どうやら魔法少女の先輩だったようです。

先輩を呼び出してもらうなんて、これも私が不甲斐ないせいですよね。あー自分が自分で嫌になります。


「ひ、日ノ本 火種です。すいません。私がダメダメなせいでお呼び出ししてしまって。でも助けて下さい。このままじゃ皆が処刑されてしまいます」


 また私は泣きだしそうになってしまいました。本当は自分で助けられれば良いんですが、私なんかが行ったところで、あの豚の魔物は倒せそうにありませんし、皆が処刑されるタイムリミットも今日の17時です。ここは誰かに助けて貰うしか手がありません。

 これはお願いなので、強制力は有りません。しかし、私は心の何処かで目の前にいる二階堂さんは、二つ返事で「うん、いいよ」と言ってくれるんじゃないか?と期待していました。

だけどやはり私は甘かったのです。彼女は二つ返事でこう言いました。


「嫌だ、気に入らない」


 ショックで死刑宣告でもされたかのような気分になりました。でもこれで二階堂さんを恨むのは筋違い。やはり無理で無謀でも私一人で戦わないといけませんね。




 ども、二階堂 明だ。チャガマがあまりにもしつこいので、とりあえず一人だけ無事だった魔法少女に会う事になり、その魔法少女が居るという公園に着いた。

その子はサイドポニーの赤い髪の少女で、お通夜みたいな顔でブランコに座っている。

 それでたった今、そんな後輩からの応援要請をキックしたところだ。


「おい‼話が違うじゃんかよ‼」


「アンタがうるさいから私は一応来ただけだ。大体、自分達の問題を人に押し付けようとするその心が気に入らない。やられたら自分達でやり返せ」


 私が魔法少女をやっていた時は、性格もあるが誰にも頼らなかった。それが悪い方向に働いたことも多々あるが、そこは自分のポリシーともいえる部分でもあるので結局曲げたことは無い。

 人にそれを強要することはしたくないので、これ以上言いたくないが、とにかく私は救出を手伝いたくない。まぁ、手伝ってくれそうな元魔法少女には心当たりがあるので、どうしてもという時はその人を紹介…。


「わ、私やります‼私一人で皆を助けます‼」


 ブランコから立ち上がった火種ちゃん。体は震えているが武者震いとは違う類のものだろう。今にも泣きだしそうな顔で非常に頼りないが、それでも恐怖を抑え込んで自らを奮い立たせたことに対しては称賛に値する。


「で、でも、五人で束になっても敵わなかった相手だぜ?一人で行っても無駄死になるだけだ。」


「そ、そんなのやってみないと分かりません‼」


「いや分かるだろ‼」


 チャガマと火種ちゃんの言い争いが始まった。魔法少女あるあるみたいなとこあるが、傍から見てると小さなタヌキ相手にムキなる少女とは何とも滑稽に見えるものである。アレを私もしていたと思うと何か恥ずかしいな。

お取込み中のところ申し訳ないが、少しばかりチェックを入れさせてもらおう。

 私はテクテク歩いて火種ちゃんに近づいた。


「えっ・・・あ、あのどうしましたか?」


 戸惑う火種ちゃんを完全に無視して、私は自分の両手で彼女の顔を完全にホールドして、その目を覗き込んだ。


「えぇええええええ‼あの近いです‼とても‼」


 顔が赤くなる火種ちゃんだが、私は覗き込むのをやめようとはしなかった。

 そうして見つけたのだ。彼女の目の中に燻る火を。

 二階堂流活人拳心得一つ、諦めていない人間というのは目の中に火を宿す。

 最初はそんな心得は信じていなかったのだけど、魔法少女をやり始めてから相手の目を見ると、本当に目の中に火が見えるようになったから不思議である。

 とりあえず彼女は最低限の資格は持ち合わせている様だ。


「ふむ、一応合格だな」


 私はそう呟くと火種ちゃんから手を離した。

 彼女の顔はまだ赤いが、その赤みが引くのを待たずに私は彼女にこう告げた。


「私は救出は手伝わない。しかし、アナタが今よりマシに戦えるように鍛えてあげることぐらいはしてやろう」


 自分でも面倒な提案をしているとは思うが、あの火を見て何もしないのは流石に人情が無さ過ぎる。今回限り特別に講師を務めることとしよう。




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