第2話 youはショック
十年前
“ドゴーン‼”
化け物の攻撃に吹き飛ばされ、私は住宅の塀を破壊して仰向けに倒れた。
本当になんなんだあの化け物?ボールみたいな体して弱そうなのに、殴っても蹴っても手応えが無いし、クソ、切ったのか頭から血も出てきた。
私は何とか上体を起こして、眼前の敵を見据えた。丸くて人ぐらいの大きさの球体上のカラフルな化け物、そいつが宙に浮いて大きな口を開けてケタケタ笑っている。
あんなの全然怖くないがムカつく、ただひたすらにムカつく。
しかしながら、私の拳法は全然通用しないしどうしたものか?
まぁ、この辺りの人達の避難は終わっている様なので、例えここで私が殺されたとしても大丈夫だろうが、それにしてもあんなボールみたいな奴に殺されるなんてことになったら一生の恥である。
さてどうしたものか?
擦り傷、全身打撲、頭部裂傷、そろそろ満身創痍で限界なんだが、まだ体は動くので戦わねばならぬ。
二階堂流活人拳心得一つ、生きてる内はあがけ。
フグを食って死んだバカな祖父の教えを未だに律儀に守り続けている私もどうかと思うが、ここがふんばりどころである。死ぬにしても一矢報いて死にたい。
そう私が覚悟を決めた時、私の隣にいつの間にか二足歩行の小動物が現れた。
「お前、良い目をしているな。戦士の目だ」
偉そうな小動物は腕組みをして人語を喋り、さも偉そうである。
外見はタヌキの様なので化け物の次は化けダヌキが出てきたらしい。
「何だお前?殺すぞ」
戦闘モードの私はギロリと化けダヌキを睨み、両手の拳を握った。
「お、おいおい、物騒だな。俺は敵じゃねぇよ。どちらかと言えばお前の味方だ」
「味方?」
非情に怪しい。タヌキといえば昔話のカチカチ山しかり、人を騙すのが普通である。そして仮にこのタヌキが味方だとしても、こんな小動物が戦えるとは思えないので加勢されても戦力アップは見込めないだろう。
「そうだ、魔法少女って知ってるだろ?」
「まほうしょうじょ?何だそれ?」
全く聞き馴染みの無い言葉だ。痴呆老女ならたまに見かけることがあるが。
「う、嘘だろ?世界の平和の為に二年前ぐらいに戦ってたろ?戦いがテレビ中継だってされてたのに、見たこと無いのか?」
「無い。ウチにはテレビも無い。ラジオも無い」
極力無駄なものは買わずに、質素倹約な暮らしをするのが我が家のもっとうである。ゆえに私は世間の流行り廃りに非常に疎い。
「はぁ~、呆れた。良い若いもんがな。まぁ良いや、お前歳はいくつだ?」
「13,もうすぐ14だ」
「ちゅ、中学生かよ‼ただの中学生が魔物相手に戦いを挑んだのかよ⁉」
「二階堂流活人拳心得一つ、強きをくじき弱きを助けるだ」
例え敵があまりに強大で、自分が死んで骸を晒すことになったとしても、恐れず前のめりに突っ込んで行く。私自身そうありたいと願っている。
「何だかよく分からないけど、とりあえず歳はオッケーだな。後は潜在魔力値だが」
「おい、豆ダヌキ。お喋りはその辺にして逃げろ。こっちに化け物が近づいて来てるぞ」
ボールの化け物はケタケタ笑いながら徐々にコチラに近づいて来る。すぐに来ずにコチラのリアクションを楽しみながら、ゆっくり近づいて来る辺り、完全に舐められていて腹が立つ。
「慌てるな。今大事なことを調べてるんだから・・・お前って魔力量少ないな。そんなんじゃ指先にしか魔力込められないじゃねぇか。勇猛果敢だから魔法少女にスカウトしようと思ったが、これじゃあ無理だな」
ガッカリした様なタヌキ。勝手にガッカリされるのは甚だ遺憾だ。それに先程から訳の分からないことばかり言いやがって。
「魔力とは何だ?」
「魔力ってのは頭の悪そうなお前にも簡単に説明してやると、あの化け物を倒す力だ。それが無いといくら攻撃してもあの魔物は倒せないぞ。たとえ核ミサイル撃ち込んでもピンピンしてるだろうぜ」
「そうなのか?通りで手ごたえがないワケだ」
頭が悪そうと言われたのは聞き逃さなかった、後でこのタヌキは殺すとして、その魔力というのがあれば、あのボールの化け物を倒せるんだな。
「その魔力を寄こせ」
「いや、魔力ってのは人間の心の中に初めから備わってるモノなんだよ。妖精の俺がしてやれるのはそれを力にする手段を与えるだけ」
「じゃあそれを早く寄こせ」
「落ち着けよ。魔法少女になるには適性が必要なんだよ。極端に魔力量の少ないお前はその適性が無い。指先に魔力を込めるぐらいしか出来ないのに、あの魔物は倒せるわけが無い」
なるほど、要するに【まほうしょうじょ】というのが魔力を使う手段であるが、その魔力が少ない私は、その魔力を使えたとしても指先ぐらいにしか込められないというワケか。
私は沸々と湧いてくる感情に耐えきれなくなった。
「フフッ、アハハハハハハハ‼アーッハハハハハハ‼」
「おいおいどうした⁉気でも狂ったか⁉急に笑い出してさ‼」
私が笑い出したので動揺するタヌキ。そのリアクションになるのも無理は無い、私は仕方が無いので立ち上がりがてら、今笑っている意味を教えてやることにした。
「ハハハッ……私は指先で岩盤を砕くことが出来る。分かったら早く【まほうしょうじょ】とやらを私に寄こせ」
その時の私は魔法少女の意味も、これから始まる闘いの日々も、フリフリ衣装を着させられることも何も分かっていなかった。
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