魔法少女の師匠〜師事する師匠は格闘系〜
タヌキング
出会い編
第1話 元魔法少女の憂鬱
私の名前は
まず、物語を始める前に私の容姿と生い立ちを説明しないといけないという暗黙のルールがあるらしいので、渋々だが説明させてもらう。
女であり肌は日に焼けて褐色、身長は174センチ、体は鍛えているので引き締まっており腹筋はシックスパック、顔はパッとしないと思うのだが、鼻の所に一文字の傷があり、眼光は鋭いと良く言われる。ヘアースタイルは髪を後ろで束ねたポニーテール。
家は代々続く拳法の道場をしていて、二階堂流活人拳として脈々と受け継がれていたのだが、私が小学生五年生の時に祖父がフグを処理せずに食べて死亡。それと同時に道場も潰れた。
だが二階堂流活人拳が途絶えたわけでは無い。拳法の技術を全て叩きこまれた私は道場を復興させる為に、己の体を鍛えながらバイトをして道場再建の為の資金を貯めている。
私の説明はこんなとこだろうか?
あとのことは俗に言う黒歴史なので語りたくはない。
『大変です‼魔法少女たちが十字架に磔にされてます‼このままでは日本は‼いや世界はどうなってしまうのでしょうか⁉』
今、お昼のトレーニング終わりにレトロな定食屋に来ているのだが、そんな緊急ニュースが上の棚に置いてある小さなテレビから流れている。
見ると倒壊した建物の瓦礫の中、青、黄色、緑、紫のカラフルなフリフリ衣装を着た女子たちが本当に十字架に磔にされている。
お昼休みのサラリーマンもOLも固唾を飲んでテレビを見ながら「大変だねぇ」「大丈夫かな?」なんて言っているが、私はササミを茹でた物を食べながら我関せずを決め込んでいる。まぁ、一言だけ言わせて貰うとすれば。
「嘆かわしい」
おっと、思わず口に出てしまった。これは失礼。あまりにも今の魔法少女達が不甲斐なくてね。まぁ、私には関係ない。世界がどうなろうが、自分の身は自分で守れるし。
たとえ今、私がご飯を食べているテーブルに、小さなタヌキがよじ登って来ていたとしても関係無い。
「よぉ、久しぶりだな」
関係無い。よじ登って来るなりオッサン声で挨拶して来ても関係ない。無視、無視。タンパク質接種、タンパク質接種。
「おい‼無視すんなよ‼そういうの傷付くんだぞ‼」
子ダヌキがいくら傷付こうが私には何の関係も無い。ご飯を食べたらサッサと金を払って店を出よう。
「それにしてもお前、暫く合わない間に…オッパイ大きくなったな♪ゲヘへ♪」
その発言に対して体が瞬間的に反応し、気が付くと私はタヌキ目掛けて左手を振り下ろしていた。
“ドーン‼”
轟音が店中に響き渡り、テレビにくぎ付けになっていた人達、定食屋のおばちゃんも一斉にコチラを見たが、私は知らぬ存ぜぬで再びササミを食べ始めた。
危なかった。テーブルに当たる瞬間に力を弱めたから良かったが、弱めなければテーブルを叩き割っていたところである。
「あ、あぶなかったー‼テメー殺す気かよ‼」
チッ、当たらなかったか。害獣を駆除してやろうと思ったのに。
ちなみにこのタヌキ。精霊らしく魔法少・・・いや特定の女性にしか見えないし声も聞こえないらしいので、他の客はこのタヌキに気付いて居ない筈である。
しかし相変わらずスケベなタヌキである。
ちなみに私はトレーニング後なのでスポーツブラと短パンという露出の高い服装をしており、こんなことなら上からジャージでも着ておくべきだったな。
「テメー‼無視すんなこら‼追い詰められたタヌキはジャッカルよりも凶暴なんだぞ‼」
うるさいな。そろそろ相手をしてやるか。私は目線をタヌキに合わせた。
「何用でここに来た・・・なんて野暮なことは言わない。私は助けには行かないぞ」
「ぐっ、用件は認知済みかよ・・・しかしお前しか居ないんだよ。暇そうなの」
ガッと私はタヌキの首根っこを右手で掴むことに成功。さてどう煮て焼いて食ってやろうか?
「く、苦しいタヌ。助けてタヌ」
こんな時だけ語尾にタヌを付けてマスコットぶりやがって、本当に腹立たしいタヌキである。このまま絞殺した方が世のため人の為だとは思うが、グロテスクやスプラッターな展開は好みでは無いので、私は手を離してやった。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思った」
「もう用件は済んだろ?さっさと私の視界から消えてくれ。今、トレーニング後のゴールデンタイムなんだよ」
「そ、そうはいかねぇ。この魔法少女の水先案内人のチャガマ様は簡単なことでは諦めねぇ。頼む紅蓮の魔法少女ウィザード・グレン。後輩たちのピンチに手を貸してくれ‼」
タヌキの精霊チャガマはテーブルの上で土下座した。10年前に私の同級生の女生徒達の下着を盗んで捕まった時も土下座していたのを思い出し、土下座を見ても腹立たしいとしか思わない。
しかし、ウィザード・グレンとは懐かしい名前だ。
もうここまで来たら白状するが、私こと二階堂 明は元魔法少女のであり、その魔法少女時代こそが私の黒歴史そのものであった。
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