第183話 突き刺さる助言


 時はさかのぼり、夏休み直前。


「ねー。アンタって雅日に振られたのになんでまだ〝親友〟でいられてんの?」

「……え」


 その日の学校は修了式のみで午後はフリー。


 特に予定もない私は友達のとおると一緒にお昼を食べることになり、そして今は立ち寄ったパックにてハンバーガーを手に雑談に華を咲かせていた。


 その最中、ふと透がやぶから棒にそんなことを訊ねてきた。


「なんでって……そりゃ、親友でいたいから親友でいるんだけど」


 私の答えに顔をしかめる透は、そのままむしゃくしゃした気持ちをぶつけるようにハンバーガーに噛りついて、


「それマジで言ってる? あと、本気でそう思ってるの?」

「う、うん」


 ぎこちなく頷くと、透は「やれやれ」と肩を落として私を睨んできた。

 そして、


「そのわりには柚葉さ。ずっと無理してるように見えるんだけど?」

「――っ」

「それは私の気のせい?」


 呆れたような、心配しているような、どちらにも取れる声音で言った透に、私は虚を突かれたように息を飲んだ。


 言い返そうにも口がうまく開かず、反論できずに視線を堕とす私を見て透は「やっぱり」と飲み物をすすりながら肩を落とした。


「雅日のこと全然吹っ切れてないじゃん」

「そ、それは……まだ立ち直ろうとしてる最中で……」

「告ってからもうだいぶ時間経ってるよね」

「うぐ」


 告白したのが林間学校の時。それからもう約一ヵ月半ほどが経過している。


「雅日を好きだった期間が長かったのは知ってるし、アンタがどんだけアイツのこと好きだったかも私は知ってる。だから言わせてもらうけど、辛くないの? そんだけ好きだった相手ともう一生恋人になれないって分かって、その上でまだ親友続けるってさ」

「今日はお説教しに誘ったの?」


 徹の詰問に一口目まで美味しかったハンバーガーがどんどん喉を通らなくなっていく。


 辛うじて口に運べるポテトをリスのように齧りながら涙目で友人を睨めば、透は気にした様子もなくまた大きくハンバーガーを頬張って続けた。


「お説教ってわけじゃないよ」

「じゃあなんなのさ」

「単純に今のアンタが雅日のことどう思ってるのか知りたかったのと……」


 透はそこで一度言葉を区切ると、一指し指と親指で摘まんだポテトをビシッと私の方に向けて言った。


「今日のアンタの顔がじめじめしてたから」

「じめじめ?」


 はて、と小首を傾げる私に、透は「そっ!」とポテトを加えながら頷いた。


「雅日が緋奈先輩と一緒に帰るところ見てるアンタ、すごく苦しそうに見えたよ」

「…………」


 そんなことない、と透の指摘に否定できない私がいて、さらに肯定するように胸がきゅっと締め付けられた。


 透はそんな私を見て「やっぱり」と心底呆れたようにため息を落とした。


「柚葉さ。雅日と無理して親友やってるよね?」

「そっ、んなことはない!」


 それだけは絶対に違うと強く否定しようとした。でも、真っ直ぐにこちらを見つめてくる透の瞳に気圧されて、語勢がわずかに削がれた。


 それをどう受け取ったか。透は何度目かのため息をこぼすと自分のポテトを鬼気迫る私の口に突っ込んできて、


「もう一度聞くね。――本当は無理してるでしょ」

「――――」

「たぶんだけど、梓川だって気付いてると思うよ」

「――――」

「それにさ、アンタは上手く隠してるつもりかもしれないけど、雅日本人も気付いてるんじゃない?」

「――っ!」


 少しだけ申し訳なさげに、躊躇ためらいをみせてから告げた透。


「アイツが鈍感だってのは柚葉から聴いたし私も二人のこと遠くから見続けて判ったよ。でも、ただ鈍感ってだけじゃないとも思った。少なくとも、柚葉の気持ち知ってから、雅日の態度は明らかに変わったでしょ」

「……近くで見てきたわけでもないのに、そんなの分かるわけないでしょ」

「注意深く見てたら以外と気付くものだよ。お互い距離感図ってる感じが露骨」


 そこまで露骨だとは思わないけど、でも、そうじゃないとも言い切れなくて。

 言い切れない理由はもう自分でも分かってる。


 透のその指摘通りだ。今の私たち……私はしゅうとの距離感に迷っている。


 それを自覚しているから、対面の友達の顔を面と向かって見れない。


 それを透はどう受け取ったのか。やっぱり、とでも言いたげに視線を落とした透は、ポテトをまた一つ齧って。


「私はべつに雅日と距離置いた方がいいとも言わないし、結局はアンタの気持ち次第だからとくに助言らしいこと言わないけどさ」


 でも、と透はハンバーガーを両手に持ったまま俯く私に向かって言った。


「この夏休みに少しでも気持ちの整理は付けておいた方がいいんじゃない」

「――」

「雅日とこのまま親友でいるのか。それとも……」

「……」

「雅日と親友辞めて、もう関わらないようにするのか」


 透は酷く落ち着いた声音で、でも、ずっと私のことを想っているような表情カオで言って。


「このままずっと答えも出せないまま中途半端な状態でいたら、柚葉が傷つくだけだよ」

「……分かってるよ。そんなこと」


 どうにか振り絞った声に、透はただ一言。「あっそ」と素っ気なく返したのだった。


 ***


「そーいや、アンタ明日からバイト始めるんだっけ?」

「あ、うん」


 昼食を済ませ後。二人で適当に街をぶらぶらしているとふと透が思い出したように訊ねてきて、私は一拍遅れて頷いた。


「なんだっけ。喫茶店?」

「そうそう。猫がいる喫茶店」

「へぇ。猫いるんだ。ん? ということは猫カフェなのでは?」

「違う違う。普通の喫茶店だよ。猫はマスターの飼い猫らしい」

「なるほど。ちなみにお店の名前聞いていい? 皆で遊びに行ってあげる」


 それってつまりからかいに来るってことじゃん。

 カラカラと笑う透に、私は顔をしかめて両腕で大きな✕を作った。


「やだ。絶対来ないで」

「なんでよ。いいじゃん。いっぱい注文してあげるよぉ? 売り上げに貢献してあげる」

「余計なお世話ですぅ。もし来るとしても、私がいない時に来て」

「それじゃあ行く意味ないじゃん」

「やっぱからかいにくるつもりじゃん!」 


 大仰にため息を吐いて、それから惜し気に口を尖らせる透に念押しした。


「いい。恥ずかしいから絶対に皆で来ないでね」

「はいはい。ちなみに私だけなら?」

「まぁ、透一人ならべつにいいけど」

「決まりね。柚葉が仕事慣れした頃合いを測って遊びに行ってあげる。そうだ。お店の名前は?」

「お店の名前はね――」





【あとがき】

みなさーん!

お久しぶりでございます! 長らく更新休んでいた馬鹿野郎ことゆのやでございます! 更新するって言ったのに中々更新できなくて本当にすいませんでした!


言い訳ではないが今年は本当に精神的にも体調的にも不調が続きまして、中々執筆することができませんでした。え? じゃあなんで急に更新なんかしだしたかって?


それは仕事を辞めたからだよ!! ……仕事辞めた瞬間するする原稿書けるようになって作者本人もびっくりしてるんだから。新作も書けちゃったんだから。本当にびっくりよ。

 

やはり余裕。やはりゆとりを持つことって大事なんだと改めて痛感させられましたね。


というわけで次の仕事が見つかるまでちょっぴり時間に余裕が生まれましたので、またひとあまの方をゆっくりではありますが更新していきます。まぁまたすぐに更新止まりそうな未来が見えるけどな。


未完のまま終わると思った読者たちよ。ひとあまはちゃんと続くぞ……たぶん!


それでは身体の調子と貯金の様子を大事にしつつ、改めてひとあまの原稿を進めて、そして更新していきたいと思います! どうか、どうかゆのやめにエールを! そして是非新作も読んでぇぇ。


Ps.ゆのや。完全復活……?


新作タイトル 【 可愛い小悪魔な後輩の分からせ方 】









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