第186話 それも柚葉の魅力です
「そろそろ昼食にしたいんだけど、お前らお腹空いてる?」
「あ。そう言われたら急にお腹空いてきたかも」
「僕も」
時間もお昼時で丁度いいタイミングだと思って神楽と柚葉に訊ねると、二人は賛成と相槌を打った。
「柚葉は何か食べたいものあるか?」
「うーん。お蕎麦……いやパスタか」
「真逆じゃねえか」
ジャンルは共に麺類だが和風と洋風でギャップが激しい。
顎に手を置いて真剣に考える柚葉に苦笑しながら、俺は神楽にも同じ質問を投げた。
「神楽は?」
「僕は何でもいいよ」
「俺も何でもいい」
男二人とも特に拘りをみせず、自然と昼食は柚葉の気分に合わせる形になったわけなのだが、
「二人とも主張薄くない?」
「ここで変に論争しても時間の無駄だろ。俺は洋風でも和風でも何でも食えるし気にしない」
「そういうのって緋奈先輩と一緒に居る時もやってるの?」
「んー。まぁ。外出する時は基本、藍李さんの食べたいものに合せるかな」
できる男ならそういうのもそつなくこなしてリードするのだろうが、俺はまだまだ未熟者なので基本的に藍李さんに委ねるスタンスを取っている。
藍李さんもそっちの方が実は楽と言ってくれているので、今後も変わらずこの方法を続けていくつもりだ。藍李さんがリードして欲しいと申し出た時はまた別の話だけど。
そんな普段の俺たちの様子を質問者に答えると、何故か柚葉は不服そうに頬を膨らませていて。
「……むぅ。しゅうができる男でなんか腹立つ」
「そんな顔されても困るだけなんだけど。つか、逆に聞きたいけど、これは女性的に楽なの? 男側からすると正解か不安になるんだけど」
「女子的にはその姿勢はすごく助かるよ。だって、それってつまり自分のこと最優先にしてくれてるってことでしょ」
「美味しい物一緒に食べられるなら何でもよくね?」
「そういうのがムカつく!」
「ぼげぇ! な、なんで急に殴るんだよ!」
女性目線からの感想を求められたら何故かキレられて腹パンされたんですけど。
甚だ遺憾なパンチを喰らって呻いていると、そんな俺をあざ笑うかのように神楽が見下ろしていて、
「いやぁ。相変わらず、天然たらしは怖いね」
「たらしじゃねえし女性を弄んだ経験も覚えもねぇよ」
「それを人は『天然』と呼ぶんだよ」
やれやれと肩を竦める神楽。
嘲笑する神楽に犬歯を剥き出しにしながら、俺は己の肘を抱えてそっぽ向いている柚葉に視線を移した。
「それで、結局何が食べたいんだよ」
「……お蕎麦が食べたい」
「パスタじゃなくていいんだな?」
「うん」
拗ねた顔で応じる柚葉に俺は嘆息を落とす。とりあえず柚葉の要望は聞けたので、あとはこの腹立つ笑みを引っ込めないでいるヤツの意見を確認するだけだ。
「神楽は? 和食でいい?」
「さっきも言ったろ。僕は柚葉の意見に合せるって」
「柚葉さん! コイツもやってませんか⁉ 一発お見舞いしてくださいよ!」
「神楽は元からじゃん」
「なんで俺はダメで神楽は許されるんだよ!」
「くくっ。よかったね。柚葉の特別で」
「何も嬉しくねえ!」
マジで神楽は許されて俺は腹パン喰らわなきゃいけないとか解せん。
納得いかないと猛抗議するもそれは
「はぁ。もう止めだ止め。俺が柚葉に腹パンされないよう注意すればいいだけの話だ。そんじゃあ、お昼は和食でいいな?」
「「さんせーい」」
二人の小気味よい返事を受けて、俺は大仰にため息を落とす。
ほんと、この二人といると疲れる。
……でもまぁ、この二人とでなきゃ味わえない楽しさがあるのもそれはたしかで。
まだほんの少しだけ痛みが残るお腹をさすりながら、俺は歩き出した二人を追うように歩き出した。
「ところでお昼は和食に決まったのはいいけど、お店はどこにする?」
「ここら辺でいい和食の店は」
「あ、僕いい所知ってるよ。この前家族で来たことあるけど、お値段も手頃で美味しいんだ」
「そんじゃそこ行くか」
「オッケー。あ、どうしよう。お蕎麦じゃなくてかつ丼食べたくなってきた」
「食べ盛りだな。ま、何食べるかはお店着いてから決めればいいだろ」
「ふふ。だね。あぁ、そうなると俄然お腹空いてきたな!」
「ちゃんと栄養が巡るといいな」
「……おい。なんだその意味深な発言は? もう一発お腹にパンチ入れて欲しいの?」
「た、他意はない! 決して! 健やかに成長しろよという意味でいったんだ!」
「悪かったな緋奈先輩みたいに立派な胸じゃなくて!」
「自分で墓穴掘っちゃってるよ、柚葉」
なだらかな双丘に手を当てて悔し涙を浮かべる親友に、俺と神楽は揃って微苦笑を浮かべるのだった。
「もう今日はいっぱい食べてやる! やけ食いだ!」
「はは。いっぱい食え」
【あとがき】
……誰の何がとはいわないけど。彼女はBカップです。それを気にしてるところもまたいい。
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