第163話  お別れ。そして、次の日常へ

「やだぁ! もっとお兄ちゃんと遊ぶー!」

「また帰ってきたらたくさん遊んでやるから。あー泣くな泣くな。せっかくのいい男が台無しだぞ」

「ぐすっ……約束だからなっ! 今度は一緒に釣りしような!」

「あぁ。約束だ。それと翔。渡しそびれてたけど翔にプレゼントがあるんだ」

「え……わぁ! 釣り竿だ! これって俺専用のやつ⁉」

「そう。ちょっと早いけど俺と父さんからの誕生日プレゼント。お前の誕生日はどうしたって会えなくて直接祝えないからな。だから先に渡しておく。そんで、それでいっぱい魚釣って、一緒に釣りに行く時は上手になった姿兄ちゃんに見せてくれ」

「――うん! 楽しみにしてて!」

「ふっ。超期待してる」


 五日間の帰省もあっという間に終わり、今は家族同士で別れの挨拶を交わしていた。


 俺と翔は次会った時に釣りに行く約束を。


「藍李お姉ちゃん。迷惑じゃなかったらたくさんお電話していい?」

「うんっ。私ももっと真織ちゃんと仲良くなりたいから、遠慮せずいっぱい電話して」

「やった。ねね、最後にお姉ちゃんとぎゅーしたい」

「ずきゅーん! あぁもう本当に可愛いな真織ちゃんは!」

「ずるい! 私も混ぜて!」

「はいはい。皆でぎゅーしよう」

「「ぎゅー!」」


 真織、藍李さん、姉ちゃんの三人は別れを惜しむようにぎゅっと抱きしめ合っていた。見れば三人とも目尻に涙を浮かべていて、仲良くなった分別れの寂しさも倍増してしまったのだろう。


 そんな微笑ましい光景に双眸を細めつつ、


「元気にやるだぞ、久遠」

「うん。父さんも元気で。……それと、仕送りしてくれるのは有難いけど、度を越さないでくれよ」

「ぎくぅ! ……いいだろ、藍李ちゃんもいるんだしちょっとくらい」

「父さんのちょっとはちょっとじゃないんだよ。とにかく、送りすぎ注意ね」

「へーい」 


 硬い握手を交わしながらもジト目を送る父さんに爺ちゃんはバツが悪そうに口を尖らせていた。


「何か辛いことがあったらいつでもこっちに来ていいからね。ここは李乃さんのお家でもあるんだから」

「ありがとうございますお義母さん。それじゃあ、久遠くんと喧嘩したらこっちにお邪魔させていただきますね」

「その時は美味しいご飯たっくさん用意してあげるね!」

「あ、ありがとう朱音ちゃん(どっちにしろ逃げ場ないじゃない⁉)」


 母さんは婆ちゃんたちと別れを惜しみながらも頬を引きつらせていた。まぁ、今回もとんでもない量のご飯を食べさせられてたからな。この五日間で何度逃げた母さんを見たことか。


 それぞれが大切な人たちとの挨拶を終えていく中で、


「――しゅうも、藍李ちゃんと仲良くやるんだぞ」

「うん。喧嘩しないように頑張る」

「そうなった時は常に男が一歩退くものだ。ソースは儂……あぶす⁉」

「孫に変なこと吹き込むんじゃありません。頑張ってね、しゅう」

「ん。ありがと。婆ちゃん」


 頭にたんこぶが出来上がった爺ちゃんに苦笑しながら、俺は婆ちゃんからの激励を胸に刻み込んで強く頷いた。


「藍李ちゃんも。また今度しゅうたちと一緒に家に遊びに来てね」

「はい。また是非」

「真織も藍李ちゃんのことを気に入ったようだし、家はいつでもウェルカムじゃぞ!」

「ふふ。ありがとうございます。和義さん。真紀さん。五日間。素敵な思い出を作らせていただき本当に……本当にありがとうございましたっ」

「「しゅうのカノジョには勿体ないくらい良い子じゃのぉ」」

「悪かったな分不相応で!」


 丁寧にお辞儀した藍李さんの淑女然とした佇まいに、爺ちゃんと婆ちゃんがぽろっと本音をこぼす。それに涙目になりながら噛みつけば、家族全員から笑われて。


「それじゃあ、皆。元気でね! (達者でな!)」

「うん! (あぁ)」


 ――こうして雅日家五日間の帰省は、たくさんの思い出と共に幕を閉じ――


「あ、そうだ。しゅう! 子どもができたらいつでも爺ちゃんに報告するんじゃぞ!」

「俺まだ高校生だっつの⁉」

「ふふっ。最後まで雅日家らしいね」


 最後に孫にセクハラぶっこんできた爺ちゃんが婆ちゃんにゲンコツを喰らう一幕に家族全員、揃って苦笑を浮かべながら『またね」と手を振る。


 翔。真織。朱音さんに一真さん。爺ちゃんと婆ちゃんとの別れを惜しみながらも、また次に会える日を楽しみに俺たちは自分たちへの家へと帰る。



『さよなら』は終わりじゃない。またいつかの再会を願うための、未来への切符として思い出と共に胸に刻み込まれる。


 かくして、俺と藍李さんの五日間の帰省はなんとも締まらない形で幕を閉じた――


『――まぁ、帰ったら『その』可能性があるやつやるんだけど』

「……楽しみだね。しゅうくん」

「っ! ……そっすね」

「ふふ。キミの婚約者は何でもお見通しなんだよ」

「肝に銘じておきます。……でも自分だって内心じゃ楽しみにしてるくせに」


 帰り際、俺の胸裏モノローグを見透かしたようにぼそっと呟いた藍李さんに、俺はビクッと肩を震わせて、微笑む彼女に視線を泳がせるのだった。



【あとがき】

長かった帰省編もこれにて完結ッ! 最後までご拝読ありがとうございました!

まだ3章はあと1幕残っていますが、どうか最後までお付き合いください。

何はともあれひとまず無事に帰省編を完結させることができたということで、ひとあまは2日ほど休載をいただくかもしれません。3・5章の構想と3章6幕の改稿の為にちょっと時間使わさせてクレメンス。


今後の更新内容は予定通り3・5章。その前の近況報告で進めていく方針です。この近況報告で読者の皆様にひとあまの連載に関して大事な告知をする予定です。あ、全然悲報ではないのでご安心ください。ひとあまはこれからも変わらず連載を続けてく予定です。あえて言うなら、連載を続けるための対応です。読者の皆様には何卒、ご理解、ご協力いただけると幸いでございます。


本当にいつもご応援、ご感想いただきありがとうございます。皆様のご声援に応えられるよう、少しでもひとあまを面白くできるようにこれからも尽力していきます。


では、また次回の更新で~。(*´▽`*)




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る